石川県加賀市にある創業77年の樹脂加工の老舗・石川樹脂工業は、有名企業の食器製造の他、送電設備部品やコイル部品、鉄道の枕木、碍子(がいし)、自治体向け水道用ブタといったインフラに関係したものや仏具などさまざまな製品を手掛けている。
2020年には食器の独自ブランド「ARAS」(エイラス)も立ち上げ、事業は順調に成長している。しかし、その成功の裏で深刻な人手不足に陥ってしまった。
では、どのようにその課題を解決したのだろうか。専務取締役 石川勤氏に話を聞いた。
石川氏は東京大学で工学を専攻。卒業後には外資系企業P&Gで財務会計を10年間担当し、2016年に家業の石川樹脂工業に入社した。
「外資系で使われるような“カタカナ用語”でまくしたてても誰にも響かないだろう」と考え、当初の3年間は営業として、成果を出すことに注力した。社内からの信頼を得られるよう努力していたが、やがて社内の人たちが生産性向上にあまり注意を向けていないことに気が付いた。
「『給料を上げてもらいたい』『休日を増やしたい』という漠然とした希望はあるんですが『じゃあどうすればそれが達成できるのか』に目が向いていないように感じた」と石川氏。「それには生産性向上、業務効率化を図っていく必要があることに気付いていなかったんです」
そこで、2019年に生産性向上に向けた取り組みの一環として、工場で産業用ロボットやAIを活用するようにした。これにより、従業員1人当たりの売上高が一気に急伸した。
2020年には自社ブランド「ARAS」を立ち上げた。ARASはガラスと樹脂をかけ合わせた新素材を採用しており、「1000回落としても割れない食器」としてクラウドファンディング上でキャンペーンを展開したところ、合計3200万円もの支援を得た。
しかし、産業用ロボットやAIの導入で軽減されたかと思われた人手不足が、ARASのヒットで再度顕在化することになった。顧客からの電話問い合わせが増えたことによるものだ。
「事務所に詰める社員しか対応できる人がいなかった」と石川氏は当時を振り返る。顧客からの電話の他にも、営業電話や「今、FAX送ったけど見た?」というような電話もかかってくる。
「1本の電話対応そのものは5分ほどでも、担当者へ変わってもらうための待ち時間、いない場合はメモの作成業務が発生しますし、それまで集中して作業していたところへ電話がかかってくると、再開するにも時間がかかってしまう。実際に失われる時間は1本の電話に付き15分近くもありました」(石川氏)
担当者が事務所にいない場合は、工場などで作業している社員が電話を取りに行かねばならない。場内放送で呼び出しがかかると、呼び出された本人以外も、それまでの緊張感が切れてしまう。
「せっかく集中して作業に取り組んでいても、電話が鳴ると全てが中断されてしまいます。電話対応後、元の作業に戻るまでに時間がかかり、効率が著しく悪くなっていました」(石川氏)
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