「闇バイト」の温床? スポットワークアプリは全面禁止した方がよいのか働き方の見取り図(1/2 ページ)

» 2024年11月27日 07時00分 公開
[川上敬太郎ITmedia]

 「犯罪グループは雇った人間を都合よく利用した後、『捨て駒』として切り捨てます。待ち受けているのは、重い刑罰です」

 「闇バイト」による強盗や窃盗事件が首都圏を中心に相次ぐ中、警察庁は公式Webサイトで、このような強い警告を発しました。

 インターネットの掲示板やSNSだけでなく、いまは一般求人などに紛れ込んで闇バイトを募集するケースがあることも指摘されています。厚生労働大臣は記者会見で、雇用仲介を行う事業者やその団体に対し、求人掲載前に業務内容などの確認を十分に行うことや、違法・有害な募集情報を発見したら削除の措置を取ることなどを要請したと述べました。

 昨今は、空き時間を使って単発で短時間働くスポットワークが広がりつつあります。スマホアプリを利用したスポットワークの仲介サービスは、「猫探しの求人」が闇バイトではないかと、SNSで話題になるなどしました。

 ネット上では「犯罪に加担して収益を上げていいわけがない」――などとスポットワークアプリに対する厳しい声が聞かれます。確かに、闇バイトというキャッチーな言葉だと“ちょっとグレーなバイト”くらいに誤解してしまいそうですが、被害は人の命が奪われてしまうほど深刻です。危険性を考慮して、スポットワークアプリは全面禁止にした方がよいのでしょうか。

「闇バイト」による一連の事件からスポットワークアプリの危険性が指摘されている。写真はイメージ(ゲッティイメージズ)

著者プロフィール:川上敬太郎(かわかみ・けいたろう)

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ワークスタイル研究家/しゅふJOB総研 研究顧問/4児の父・兼業主夫

愛知大学文学部卒業。雇用労働分野に20年以上携わり、人材サービス企業、業界専門誌『月刊人材ビジネス』他で事業責任者・経営企画・人事・広報部門等の役員・管理職を歴任。

所長として立ち上げた調査機関『しゅふJOB総研』では、仕事と家庭の両立を希望する主婦・主夫層を中心にのべ5万人以上の声をレポート。

NHK「あさイチ」他メディア出演多数。


利便性と安全性のせめぎあい

 スポットワークアプリは、働き手、求人企業の双方に圧倒的に便利なサービスを提供しています。スマホ一つあれば、働き手は隙間時間に仕事を探して即応募できます。求人企業も、急に人手が必要になった際にすぐに求人を出して募集をかけられます。

 その需要の高さを裏付けるように、最大手と言われるタイミーをはじめ、メルカリハロやスポットバイトル、シェアフルなど、大手企業がこぞって参入する一方、さまざまな懸念もあります。

 スポットワークについての懸念は、以前書いた記事「ワーキングプア増加? 急拡大するスポットワークは、第2の日雇い派遣となるのか」でも指摘した通りですが、中でも利便性に秀でているのが、スマホ上で一通りのサービスが完結できるスポットワークアプリです。

 その手軽さは魅力である一方、利便性を追求すればするほど疎かになりかねないのが情報の精度や安全性です。働き手からすると、求人に応募する際に職場環境や仕事内容の詳細、賃金はきちんと支払われるのかなど気になることが色々あります。

 一方、求人企業からすると、応募してくる働き手が信頼のおける人であることや時間通りに来てくれること、きちんと仕事してもらえることなどに疑いが生じると安心して依頼できません。

 利用者が安心してサービスを活用できるためには、精緻な事前調査が必須です。雇用仲介事業を行ういわゆる人材サービス事業において、扱う情報の精度や安全性は信頼に関わる重要な要素です。

 例えば人材派遣の場合、サービス利用を希望する働き手が登録する際には本人確認ができる身分証明の提示はもちろん、対面やオンラインで面談したり、詳細に経歴確認やスキルチェックを行うなどして情報を確認します。インターネットが普及する前は登録のために現地へ足を運び、書類記入などで2〜3時間以上かかることもザラでした。いまはネット上で完結できるケースが増えたとはいえ、所要時間が1時間以上かかることも珍しくありません。

 一方、求人情報に対しては、依頼を受けたら営業担当者が現地に出向き、実際の職場の存在や雰囲気などを確認した上で企業の担当者と打ち合わせを行い、求人内容を詳しく確認します。その時点で違法性や、働きづらい条件がないかを確認して適宜修正してもらい、精査されたものだけを求人情報として公開します。

 そのため、求人依頼があってから求人情報が公開されるまでに何日もかかることが普通です。スポットワークアプリも人材派遣などと同じように、働き手と求人の情報精査に時間を費やせば、利用者としては安心できます。

 しかし、サービス利用開始までの時間が長くなるほど、「すぐに働きたい」「すぐに人手が欲しい」という要望に応えられなくなります。利便性を求めたいが安全性も確保したい――。いまそんなせめぎ合いが、スポットワークアプリの利用をめぐって起きています。

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