住むつもりのない物件の住宅ローンを「居住目的」として個人に虚偽申請させ、実際には投資用物件として運用させる──。
2024年11月、住宅ローンを利用したそのような不正が発覚し、都内の不動産会社の役員ら3人が逮捕された。不動産会社、ローン仲介業者、購入者が協力して住宅ローンを悪用した事件だ。
容疑者の1人は、他の申請者に虚偽の住民票を用意するサービスを提供し、不動産会社や仲介業者と利益を分け合っていたことも明らかになった。警察によると、この手口で100件以上の物件が違法に取引されていた可能性があるという。
再発防止のために、不動産業界や金融業界はどのような対応を取るべきなのか。また、筆者自身も勧誘を受けたことがある、詐欺の実際の手口とは。
住宅ローンは本来、居住用住宅を購入するために設計された低金利融資商品である。一方、投資用不動産ローンは金利が高く、審査基準も厳しい。この事件では、不動産会社が「低金利で手軽に始められる資産運用」として住宅ローンを利用させる手法を用いていた。
実は筆者自身も2021年に同様の勧誘を受けた経験がある。新宿駅近くで行われたアンケート調査に回答したところ、後日、不動産会社から「資産形成」をテーマにした面談の案内を受けた。
それから数日後の午後7時頃に港区のオフィスを訪れると、「自己資金数万円」で住宅ローンを利用し、不動産投資が可能だと説明された。
筆者が「住宅ローンで投資は違法ではないか」と尋ねると、担当者は「1年だけ住んで転勤したと言えば大丈夫」と言い切った。また「今後価値が上がるエリア」として足立区や板橋区の物件を紹介されたが、後に調べたところ、いずれも相場より2割程度高値でその会社の関連会社がリノベーションしていた物件だった。
驚くべきことに、内見はその夜のうちに行われた。全ての物件を見終わったとき、時計は午前1時を回っていた。
「3つの物件からどれにするか」と迫られたが、そもそも相場より高い。100歩譲って転勤の理論が通じるとしても、投資リターンも見込めなかった。そこから2時間ほど押し問答となったが、なんとか最後まで断って、深夜3時近くに六本木を後にした。
筆者のケースでは、とある提携金融機関であれば、自己資金が数万円からでも借りられるという「提携ローン」が組まれていた。もしかしたら金融機関側は何も知らずにその会社と提携していたのかもしれないし、実は黙認していたのかもしれない。
内見が深夜にまでおよび、購入を迫られる場面もあったが、最終的には不審に思い断ることができた。しかし、このような勧誘に応じてしまう人もいるかもしれない。
居住用と偽って、投資を前提とした物件を購入することは詐欺である。今までは、住宅ローンの不正利用に対する罰則が限定的であり、虚偽申請が発覚しても融資取り消しといったあくまで規約違反事例でとどまる場合が多く、刑事罰としての抑止力は不十分だった。
今回、当局が逮捕という措置に乗り出した背景には、虚偽情報を提供した不動産会社や代理店、購入者に対する啓発の意図もあるだろう。一部では、投資家側が「不動産会社にだまされた」として裁判を起こすケースもみられる。しかし、金融機関の融資関連書類には「住宅ローンで不動産投資することはできない」旨が必ず大きな文字で目立つように表記されており、「知らなかった」という言い訳は通らない。
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