勤務時間外の一切の連絡を禁止する――といった、より強硬な対策も考えられますが、緊急対応が必要な際に動けない、休み明けの仕事の準備ができないなど、逆に働き手にとって不便な側面も否めません。
こうしたデメリットを避けるならば、まずレスポンス主導権を認めた上で、勤務時間外の業務拒否は“お互いさま”だと受け入れ合う風土醸成に取り組む必要があります。そのうえで、もう一歩進んだアプローチとして、他律的マネジメントから自律的マネジメントへと移行させることが必要になってきます。
業務遂行の裁量権が少なく、上司に確認するまではその日に取り組む業務すら決められない他律的マネジメントの場合、仕事の優先順位が上司の指示に振り回されます。そんな環境下で表向きはつながらない権利が確立されていたとしても、勤務時間外に受けた連絡を受け流すのは簡単ではありません。
一方、自らが遂行する仕事範囲が明確かつ委ねられた状態であれば、どの仕事を優先して進めるかといった決定権を自分が持つことになります。自律的マネジメントとはそういうことです。勤務時間外の連絡もレスポンスするか否かは基本的に自分の裁量範囲になります。
社長が休日に部下から連絡を受けてもレスポンスを強制されていると感じないのは、業務の裁量権が自分にあるからに他なりません。自律的マネジメントが可能になっていれば、休日の連絡にレスポンスを行わなかったとしても、業務拒否ではなく「業務保留」でしかないと見なされることになります。
常時つながる社会は、人類にとって進化に違いありません。つながらない権利の必要性はそんな進化の過程で生じましたが、進化を前向きに受け止めるなら、職場からの連絡を一切遮断してしまうのは最後の手段です。
つながる社会をつながらない社会に戻すのではなく、つながる社会の中で気持ちよく休むことができる状態を創出するための手段を導き出すことが求められます。
そのためには、つながらない権利の確立だけでなく、自律的マネジメントに移行し、働き手の権限と責任で仕事遂行できる「業務主導権」を持った状態を構築する必要があるでしょう。
ワークスタイル研究家。1973年三重県津市生まれ。愛知大学文学部卒業後、大手人材サービス企業の事業責任者、業界専門誌『月刊人材ビジネス』営業推進部部長 兼 編集委員の他、経営企画・人事・広報部門等の役員・管理職を歴任。所長として立ち上げた調査機関『しゅふJOB総研』では、仕事と家庭の両立を希望する主婦・主夫層を中心にのべ5万人以上の声を調査。レポートは300本を超える。雇用労働分野に20年以上携わり、厚生労働省委託事業検討会委員等も務める。NHK「あさイチ」他メディア出演多数。
現在は、『人材サービスの公益的発展を考える会』主宰、『ヒトラボ』編集長、しゅふJOB総研 研究顧問、すばる審査評価機構 非常勤監査役の他、執筆、講演、広報ブランディングアドバイザリー等に従事。日本労務学会員。男女の双子を含む4児の父で兼業主夫。
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