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「働きやすさ」が「ゆるさ」に転じてしまうのはなぜ? 働き方改革の目的を探る働き方の見取り図(3/3 ページ)

» 2025年01月21日 07時00分 公開
[川上敬太郎ITmedia]
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気がかりな「働きやすさ」の二極化

 しかしながら、気になることが少なくとも2点あります。1つは、これらの追い風を実感できる働き手とそうでない働き手とが顕著に分かれてしまう可能性です。例えば賃上げについても、積極的に取り組んでいる職場もあれば、そうではない職場もあります。

 また、賃上げが行われたとしても、大手企業などベースとなる賃金が高い職場で行われる賃上げと、賃金ベースが高くない職場で行われる賃上げでは、同じパーセンテージで賃金が上昇したとしても家計に反映されるゆとり度合いは異なってきます。実質賃金の前年比マイナスが続く中、社会全体で賃上げ機運が高まったとしても、家計のゆとり度合いについては、家庭の間でかえって開いてしまうという事態も想定されます。

 同様に、週休3日制やテレワークの推進といった働く環境の整備も、社会全体に追い風が吹くほど環境改善に積極的に取り組む職場とそうでない職場との温度差が如実に表れて二分されていくことになりそうです。働きやすい職場はより働きやすくなる一方で、環境整備に消極的な職場との差が開いていくという傾向は既に見られます。

成果に反映されなければ意味がない

 もう1つの懸念は、働きやすさが成果に反映されるかどうかです。働きやすい職場環境を追求し過ぎるあまりそれが目的化してしまい、「仕事が終わらなくても仕方ない」「無理のないよう、目標を大きく下げよう」など、仕事への取り組み自体が甘く、ゆるくなってしまうようでは成果が出せなくなります。働きやすさを追求する目的は、決してゆるい職場を生み出すことではありません。

 むしろ、職場にも働き手にも求められているのは、短い時間で柔軟に働きながら成果を高めるという、より難しい取り組みへの挑戦です。働きやすい環境整備を進める一方で、新たな成果の出し方も生み出す必要があるということになります。

写真はイメージ(ゲッティイメージズ)

 これまで多くの職場において実証され認識されてきたのは、長時間働けば成果が上がるというメソッドです。その成功体験が前提となった状態に縛られてしまっている限り、働きやすい環境を整備すればするほど、成果は出しづらくなっていきます。

 どれだけ働きやすい環境を整えたところで、それで成果が出せなければ事業運営自体が破綻することになりかねません。テレワーク推進をやめて出社回帰させている職場の中にも、出社するパターンしか成果が出せるメソッドを持ち合わせていないため、業績が下がったのはテレワークの導入が原因で、出社に戻せば成果が出せるだろうと安易に考えているケースが見受けられます。

 働きやすさを追求する流れは、2025年も加速していくでしょう。しかし、どれだけ職場が働きやすくなったとしても、成果を出すことと両立できなければ意味がありません。

 働きやすさと成果の両立に向き合わずゆるいだけの職場が増えてしまえば、やがて「働き方改革は失敗だった」と結論づけられ、再び24時間戦える働き手が求められる時代へと逆戻りすることにもなりかねないのではないでしょうか。

著者プロフィール:川上敬太郎(かわかみ・けいたろう)

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ワークスタイル研究家。1973年三重県津市生まれ。愛知大学文学部卒業後、大手人材サービス企業の事業責任者、業界専門誌『月刊人材ビジネス』営業推進部部長 兼 編集委員の他、経営企画・人事・広報部門等の役員・管理職を歴任。所長として立ち上げた調査機関『しゅふJOB総研』では、仕事と家庭の両立を希望する主婦・主夫層を中心にのべ5万人以上の声を調査。レポートは300本を超える。雇用労働分野に20年以上携わり、厚生労働省委託事業検討会委員等も務める。NHK「あさイチ」他メディア出演多数。

現在は、『人材サービスの公益的発展を考える会』主宰、『ヒトラボ』編集長、しゅふJOB総研 研究顧問、すばる審査評価機構 非常勤監査役の他、執筆、講演、広報ブランディングアドバイザリー等に従事。日本労務学会員。男女の双子を含む4児の父で兼業主夫。


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