妻の育休明け、夫に“突然の転勤令”──「家族のサポート」前提の制度はいつまで続くのか(1/2 ページ)

» 2025年01月27日 09時00分 公開
[木村政美ITmedia]

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 リモートワークの普及や働き方の多様化が進む中で、転居を伴った転勤の必要性が見直されることが増えています。

 最近は転勤を拒む、嫌がる若者が増加しているといわれています。また、これまでの転勤制度は家族のサポート前提で成り立っていた面がありました。しかし昨今は共働き世帯が増えており、配偶者のキャリアや子育ての都合から、実際に引っ越しを伴う転勤が難しいケースもあります。

 暮らしや働き方が多様化する中で、企業は転勤制度をアップデートしていくべきかもしれません。

事例:共働きで子育て中なのに、急に引っ越し!? 転勤妻の嘆き

 Aさん(30歳)は、大学卒業後に甲社に入社し、営業部門で活躍。優秀な業績が認められ、昨年主任に昇格しました。人事異動の時期になり、AさんはB営業課長から呼び出されました。

B課長: A君、来月から大阪営業所に転勤だよ。

Aさん: えっ、急な話ですね。

B課長: ここで3年頑張ってこい。本社に戻ってくるときは間違いなく私の後釜になるだろう。この件、もちろんOKだよな?

Aさん: 取り立てていただけるのはうれしいですが、待ってください。今夜妻に話してみます。最近育児休業明けで職場復帰したばかりなんです。引っ越しの準備だってすぐにはできません。

B課長: 奥さんに同行を断られたら単身赴任でも構わない。単身赴任手当を受けられるよう総務課に話しておくから、生活費の心配はいらないよ。

 Aさんは2年前に結婚し、1年前に子どもが生まれました。妻も会社員で育児休業を取っていましたが、1カ月前、近所の保育園に子どもを預けて職場復帰したばかりです。Aさんは転勤のことを妻に相談しました。

Aさんの妻: あなたの転勤についていくと私は会社を辞めなければならない。せっかく子どもを預けて復帰することができたのに……。

Aさん: じゃあ僕が単身赴任するのはどう?

Aさんの妻: 私も働いているのに、1人で子育てなんか無理。実家の親もあなたの両親も遠くに住んでて頼れないもの。

 Aさんはそんな妻の様子を見て、転勤を断ろうと決めました。

 翌日、B課長に転勤できない事情を話すと……

B課長: これは業務命令だから受けてもらわないと困る、もし命令に従わなければクビになるよ。

 B課長の態度にAさんは困ってしまいました。

転勤を拒否できる社員とできない社員の違い

 転勤制度は、単なる人員異動ではなく、以下のような目的を持つ企業戦略の一環とされています。

(1)人材育成

 異なる地域や部署での経験を通じて社員のスキルや視野を広げたり、将来の幹部候補を育成したります。

(2)組織の柔軟性確保

 業務の効率化を図るため、企業のニーズに応じて人材を適切に配置します。日本企業のメンバーシップ型雇用では、長期的な雇用を維持する代わりに、幅広い業務や勤務地の異動に対応することが期待されています。

(3)人間関係の構築

 従業員同士の交流を通じて、部門間のチームワーク強化、互いの経験や社内文化の共有などを行い組織力を高めます。

(4)地域間のバランス調整

 特定の地域に人材が集中するのを防ぎ、地域間で業務を効率的に進めるための人員調整が行われます。

(写真はイメージ、ゲッティイメージズ)

 会社からの一方的な転勤命令に対して、社員の転勤拒否が可能か否かは、雇用契約や就業規則の内容、雇用形態、社員個々の事情によって異なります。

転勤拒否ができないとされる社員の例

(1)就業規則や雇用契約書で転勤が明示されている

 就業規則や雇用契約に「転勤あり」と明記されている場合は、転勤命令を受ける義務があり、企業の裁量による異動が可能です。

(2)メンバーシップ型雇用契約を結んでいる

 メンバーシップ型雇用(総合職)では、幅広い業務と勤務地に対応することを前提にしているため、転勤が条件になる場合もあります。(雇用契約書や就業規則に明記されている)

(3)転勤を承諾している

 採用時や入社後に転勤を条件として受け入れている場合、転勤命令は合法的に行われます。

転勤拒否ができる社員の例

(1)雇用契約で転勤が除外されている

 雇用契約書に「転勤なし」と記載されている社員は、転勤を拒否できます。

(2)勤務地限定社員で雇用契約を結んでいる

 地域限定社員として採用された場合、指定された地域範囲外の転勤は拒否できます。

(3)転勤が健康や家庭事情に重大な影響を及ぼす

 家庭の都合や健康上の理由など、個別の事情によって転勤が難しい場合があります。この場合、社員はその事情を会社に説明し、配慮を求めることができます。

(4)会社の業務上の必要性が乏しい

 転勤がパワハラや嫌がらせと見なされるケースなどが該当します。

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