「未払いの残業代払え!」 退職者から突然の連絡、どう対応すべき?(1/2 ページ)

» 2023年11月27日 08時00分 公開
[木村政美ITmedia]

 「残業代未払い」は大きな問題ですが、実際にいつまで請求できるのか、どんな場合に請求できるのかを正確に知らないビジネスパーソンは多いと思います。

 また、退職した元社員から残業代未払い分を請求されたら、企業はどのように対処したらいいのでしょうか。今回は、残業代未払いが起きてしまった場合の適切な対処方法を、事例を基に解説します。

事例

 Aさん(30歳)は、大学卒業後都内のIT企業で総務職だったが、実家の事情でUターンし、2023年7月から地方都市にある甲社(製造業で従業員数50人)の総務を担当している。

 総務課のメンバーは上司であるB課長(35歳)とパートの女性の合計3人。パート社員は午後4時で退社し、残り業務の大半をAさん1人でこなしていたため、毎月40時間の残業が発生していた。会社から残業代の支給はなかったが「田舎にしては給料の額は高い方だからまあ仕方ないか」と思っていた。

 12月上旬。Aさんは会社宛ての1通の封書を受け取り、上司であるB総務課長(35歳、以下「B課長」)に差し出した。

Aさん:これ内容証明みたいですけど……。

B課長:差出人はC君か。一体何だろう。

 CさんはAさんの前任者で、21年7月から23年6月末まで勤めていた。

 早速中身を読んだB課長は顔色を変えた。「これは大変だ。すぐに社長に知らせなきゃ」と言い、内容証明を持って社長室に飛んで行った。

B課長:社長、これを見てください。

社長:何だ、騒がしいな。どれどれ……。「自分が在籍した2年間分の残業代を払ってください」だと?

B課長:どうしましょう?

社長:ウチの会社はそもそも残業はないはずだが……。おかしいな。

B課長:確かに製造部門は交代制なので残業はありませんが、総務は結構忙しくてCさんにはたまに居残りしてもらってました。でも残業代って払ったことないです。

社長:そうなんだ。でも大丈夫。C君はすでに退職しているから、残業代を請求されても払う必要はないよ。放っておきなさい。

B課長:本当にそれでいいのか不安です。残業代の件、きっと誰かに相談したか、どこかで調べてきたのかも知れませんよ。

社長:そう言われると私も不安になってきた。B課長、早急に対処方法を調べて私に報告してくれ。

 B課長の慌てぶりが気になり、後を追いかけたAさんは、2人の会話を社長室のドア越しに聞いていた。「もしCさんに未払い残業代が支払われたら、自分の残業代も払ってもらえるかも。よし、ネットで調べてみよう」

未払い残業代は請求できるの?

 未払い残業代とは、会社が法律上支払義務があるのに支払いをしていない残業代のことをいいます。

 未払い残業代が発生する理由としては、主に次のケースがあります。

(1)従業員の出退勤記録により明らかに残業をしていることが分かるのに、残業代の支払いがない場合。そのそも会社に残業代を支払う認識がないことが多い

(2)残業代を計算するときに時間外労働、休日労働、深夜労働の割増賃金分を加算していなかった場合

(3)上司からサービス残業を強制された場合

(4)労働基準法の管理監督者に該当しない役職者に残業代の支払いがない、管理監督者に深夜手当の支払いがないなどの場合

(5)みなし労働時間制の対象にできない従業員に対して制度を適用し、残業代の支払いがない場合

(6)固定残業代の運用方法が不適切な場合

 制度を運用するには、対象従業員に労働条件通知書などで提示する、給与の内訳は基本給、諸手当などと分けて「固定残業代〇〇時間分〇〇円」と提示することが必要。それらにのっとって運用されていない場合、残業代の支払いが必要になる場合がある。

 また、実際の残業時間に応じて計算した残業代が固定残業代の額を超えた場合は、その超過額を支払う必要がある。

(7)変形労働時間制を採用し、所定労働時間以上の労働をさせた場合など

 未払い残業代があった場合、従業員(もしくは元従業員)は在職中・退職後問わず会社に請求をすることが可能です。ただし、請求は時効の成立前に行う必要があります。

 残業代請求の時効は、残業代が2020年4月1日以後に発生した場合は3年です。なお、請求金額に上限はありません。

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