「指導役の人物は、『何度も教えてますよ。間違えるたびに注意するんですけど、そんなこと教わってないって言うんです。もういい加減にしてくれって言いたくなりますよ』とあきれたように言うんです」
『何度も教えてもらっているのに、同じようなミスを繰り返す。そして、教わってないって言うんですか?』
「そうなんです。指導役は信頼できる人物だし、彼の言うことが正しいとは思うんですけど、念のため私からも正しいやり方を教えたんです。それでもまた間違えたから注意すると、『そんなこと教わってません。はじめて聞きました』って言うんです。指導役の言う通りでした。それで、これはやっぱりおかしいんじゃないかって思い始めたんです」
『明らかに教えてるのに、教わってないと言う』
「そうなんです。これじゃ、いくら教えてもちゃんとできるようにならないじゃないですか。どうしたらいいんでしょうか。こういう従業員、他の職場ではどんなふうに教育しているんでしょうか。っていうか、教育できるんですか?」
『まあ、とてもお困りなのは分かりますけど、ちょっと落ち着いて考えてみましょう。まず結論から申し上げますと、教育は可能ですし、教育的な働きかけを根気強く継続していく必要があると思います』
「じつは、もう一人いるんです。こっちは反省するだけマシではあるんですけど……注意すると、『すみません、またやらかしちゃいました。気をつけます』って申し訳なさそうに反省の姿勢を示すんですけど、また同じようなミスをする。それで注意すると、申し訳なさそうに謝り、反省の姿勢を見せる。でも、また同じようなミスをする。この繰り返しです。反省し、こちらの注意をしっかり受け止めてる様子なのに、一向に直らないんです」
『反省はするけれども、直らない。同じミスを繰り返す。前に教わってることは覚えてるんですね?』
「ええ、覚えてるんです。っていうか、注意をすると思い出す、って感じみたいです。だから、先ほどの従業員と違って、そんなこと知らないとか教わってないとか言わないんですけど、やっぱり同じようなミスを繰り返すんです」
『なるほど。伺っていると、そのお二人はちょっと違うタイプの問題を抱えてるように思えます』
「違うタイプの問題ですか?」
『1人目の方のケースでは、いくら教えても『教わってない』『はじめて聞いた』というわけですよね。そこには認知能力の問題、なかでも記憶力の問題が深く絡んでいると思われます』
「記憶力の問題……確かに記憶力に問題があるというのは分かる気がします」
『2人目の方のケースでは、注意されると、前に教わったことを思い出すし、前に注意されたことを覚えてるから、記憶がないわけではない。でも、同じようなミスを繰り返す。そこにはメタ認知の問題が深く絡んでいるように思われます』
「メタ認知の問題ですか……ちょっとイメージが湧かないんですが……」
そこで、同じようなミスを繰り返す2人のケースをもとに、記憶力の問題とメタ認知の問題について説明し、対処法のアドバイスをすることにした。
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