「でも、これまでそんな話は聞いたことがなかったので、他の人たちと個別に面談して、職場に対して思うことがあれば遠慮なく言ってもらうことにしたんですけど、とくに職場の雰囲気が悪いとか、うるさい人がいるというような話は出てきませんでした。むしろ和気藹々(わきあいあい)とした雰囲気で働きやすいという意見が出るほどで……」
『他の人たちとその相談者では、職場の雰囲気のとらえ方がまるで違ってる、っていうことですね』
「ええ。それで、いったいどういうことなんだろうって思って、とくに信頼できる人物を2人選んで、職場の雰囲気が悪くてやる気になれないという相談があったのだが何か心当たりはないかと、個別に尋ねてみたんです。すると、2人とも、『それってAさんのことじゃないですか?』って言うんです」
『職場の雰囲気に対する不満を持っていそうなのはAさんだと、誰もが思うような、何かがある、っていうことですかね』
「ええ。それで、どういうことなのか説明を求めると、Aさんは仕事の覚えが悪く、それに加えて不注意によるミスが多いため、しょっちゅう注意しないといけない、とくにチューターのBさんがAさんを熱心に指導してるけど、Aさんがあからさまにうるさがってる様子を見せることがある、って言うんです」
『そうすると、Aさんが仕事の覚えが悪い上に不注意なため、しょっちゅう注意される、それがAさんにとっては見張られていていちいちうるさいことを言われるっていう感じで、職場の雰囲気が悪いと思ってしまう、っていうことですか』
「そのようです。それに加えて、仕事上のミスを注意されたとき、他の人は『すみません。これから気をつけます』っていう感じで素直な反応なのに、Aさんは不満げな表情でふて腐れた態度を取るらしいんです。それで注意した側もイラッとくることがあり、実際雰囲気が悪くなることもあるようなんです。結局、Aさんのコミュニケーション力に問題があるように思えてきました」
『そうですか。伺っていると、職場の雰囲気自体の問題というよりも、相談者であるAさんとチューターのBさんをはじめとする周囲の人たちとのコミュニケーションの問題という感じではないか、と』
「私にはそうとしか思えないんですけど、どうなんでしょうか?」
『そうですね。コミュニケーションがうまくいっていないのは事実のようですね。でも、その背後に、Aさんが自分自身の問題を自覚してない、つまりメタ認知が働いてないということがあるように思います』
「メタ認知が働いていない?」
そこで、職場の雰囲気が悪いからやる気になれないというAさんの訴えが孕む問題点について、メタ認知を絡めて、つぎのように解説およびアドバイスを行った。
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