コストコ「年会費値上げ」の衝撃 顧客をつなぎとめるために必要な要素とは?(5/5 ページ)

» 2025年02月20日 08時00分 公開
[金森努ITmedia]
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「結局お得」という納得感の醸成が必要

 サブスクは一見すると「毎月(または毎年)の定額課金を得るだけで収益を確保する」ビジネスに映るが、実際は多様な接点で収益を積み上げ、継続的に顧客を満足させる複合モデルである。値上げを行っても、クロスセリングやアップセリングの機会を創出し、「トータルでは得をしている」「ほかのサービスや店舗より総合的にメリットが大きい」と思ってもらえれば、離脱を最小限にとどめられる。

 コストコの例においては、年会費が上昇しても「大容量商品の割安さ」「仲間とシェアする楽しみ」など、既存ユーザーに深く根付いた“お得感”や“楽しさ”の価値は大きい。NetflixやAmazonプライムも、広告付きプランや独自コンテンツという差別化によって「少々値段が上がっても、やはり使い続ける価値がある」と思わせる要素を強化している。

 サブスクビジネスにおける最大の課題は、継続的な投資コストとユーザー数・満足度とのバランスをどう保つかである。企業側は値上げ分を単純な収益増として捉えるのではなく、その分を新たな価値創造や顧客ロイヤルティー向上へ再投資しなければならない。顧客に「値上げしたけれど、さらに良いサービスを享受できる」と感じさせることができれば、サブスクの魅力は今後も失われることはないだろう。

 今後、物価上昇が続き、あらゆるサービスの値段が上がる場面が増えていくと予想される。そんな状況だからこそ、サブスク企業は安易な値上げに踏み切るのではなく、値上げを「顧客との関係をより強固にする契機」と捉え、五つの収益接点を最大限に活用していくことが求められる。コストコの年会費改定は、その象徴的な事例といえるのではないだろうか。

金森努(かなもり・つとむ)

有限会社金森マーケティング事務所 マーケティングコンサルタント・講師

金沢工業大学KIT虎ノ門大学院、グロービス経営大学院大学の客員准教授を歴任。

2005年より青山学院大学経済学部非常勤講師。大学でマーケティングを学び、コールセンターに入社。数万件の「本当の顧客の生の声」に触れ、「この人はナゼこんなコトを聞いてくるんだろう」と消費者行動に興味を覚え、深くマーケティングに踏み込む。(日本消費者行動研究学会学術会員)。

コンサルティング会社・広告会社(電通ワンダーマン)を経て、2005年に独立。30年以上、マーケティングの“現場”で活動している「マーケティング職人」。マーケティングコンサルタントとして、B to B・Cを問わず、IT・通信、自動車・電機・食品・家庭用品メーカー、金融会社、生損保、自動車販売、EC等、幅広い業種に対応し、新規事業・新商品開発・販売計画・販売のテコ入れ案・コミュニケーションプランの策定等、幅広くマーケティング業務の支援を行っている。講師としても業種を問わず、年間100コマ以上の企業研修に登壇。コンサルティング経験を元に企業課題に合わせた研修のオリジナルのコンテンツやカリキュラムを提供。研修によってマーケティングを「知っている」だけではなく、「業務に生かせるようになること」にこだわっている。執筆は、「初めてでもマーケティングが楽しく体系的に学べる本」をテーマに10数冊刊行。「3訂版 図解よくわかるこれからのマーケティング」(同文舘出版)など。


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