KDDIが経理のオペレーション改革にAIを活用し、得た成果とは。従来の業務プロセスから脱却を図る中で直面した課題、失敗と成功、今後の展望を語る。
1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックベンチャーにて証券会社の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、2022年4月に広告枠のマーケットプレイスを展開するカンバンクラウド株式会社を設立。CEOとしてビジネスモデル構築や財務等を手がける。Xはこちら
米価の高騰が止まらない。
日本のコメは「炊きあがりの食味が良い」「安全性が高い」といった評価が国際的に定着しつつあり、その需要は高まっている。従来の卸・小売を介さずに外国人や異業種の中間業者ルートへ転売されているという報道が相次ぐ。
2025年2月には農水省がようやく備蓄米の放出を予告したものの、農水省の統計によればすでに令和6年産の米価格だけが明らかな異常値を示しており、対応が後手であると批判されている。
もし備蓄米の放出予告が奏功したとしても、今後は「備蓄制度のない生活必需品や食糧」がターゲットになるだけであり、明確な法規制がなく、抜本的な対策とはならなそうだ。
その一方で、コンサートやスポーツイベントのチケットが、正規価格を大幅に上回る金額で転売される問題は、2019年に「チケット不正転売禁止法」が施行されて以降、一気に下火になった。
チケットの転売は違法なのに、なぜコメは野放しなのだろうか。チケット転売には法整備があるのに、生活必需品の転売に対して国民が納得できる形での整備が行われていない。本稿では、その背景や影響、そして今後の課題を考えてみたい。
2019年6月に施行されたチケット不正転売禁止法は、コンサートやスポーツ、演劇などの興行チケットを、興行主の承諾なくかつ営利目的で転売する行為を禁止している。違反が認められれば、1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科される可能性がある。
この法律のポイントは「営利目的」「興行主の同意なし」という要件を満たす場合、明確に違法行為と見なすということだ。チケット転売に悩まされてきた主催者にとっては画期的であり、実際に転売は下火となった。
一方、生活必需品の転売問題が大きくクローズアップされたのは、2020年に入ってからのコロナ禍だ。マスクやアルコール消毒液が品薄になり、急激な価格高騰が見られた。悪質な転売ヤーによる買い占めと高額転売に社会は大混乱し、政府も緊急措置としてマスク転売を禁止する法改正を行った。しかし、これはあくまで感染症対策上の一時的な施策であり、平時の転売行為全般を根本的に規制する法律とはなっていない。
マスクや消毒液にとどまらず、コメや小麦粉などの食材、トイレットペーパーのような日用品も、需要が一時的に高まるとすぐに転売対象となる構造が顕在化した。日本産のコメが海外へ横流しされ、高値で取引されるケースも報道されているが、こうした行為を直接禁止する法律は現状ほぼ存在しない。
生活必需品は、人々の生命や健康に直結するものであるにもかかわらず、なぜチケット転売のように明確な違法化が進まないのだろうか。
チケット転売の規制は、興行主が有する“興行権”を守るために整備された側面が強い。コンサートやスポーツ試合は、主催者が内容や価格、販売方法を設定する「財産権的性質」を持っており、その権利を不当に損なう転売は、ある意味「著作権侵害」に近い扱いとして保護の余地が大きい。
一方、コメやマスクなどは市場を通じて流通する“商品”であり、需要と供給が価格を決定するというメカニズムが基本だ。法律的には「誰でも買えて、誰でも売れる」「価格も需給に合わせて変動する」ことが前提となっているため、転売という行為自体を一律に禁止するのが難しいのだ。
生活必需品は、平時であれば自由市場において売買される。しかし災害や感染症拡大といった緊急事態には、社会的混乱を防ぐ目的で買い占め・転売が一時的に禁止されることがある。日本のマスク転売規制も、まさにこうした緊急措置として導入された。
だが、恒常的な法律で生活必需品全般の転売を規制するとなると、市場原理や商取引の自由を狭めるとの批判も避けられない。価格コントロールが過度に行われれば、供給不足時に逆に物流が滞る恐れもあるため、調整が難しい分野なのである。
海外の動向を確認しよう。欧米では、日本と同じように災害時などの緊急事態に限り、「プライス・ゴージング」(過度な価格つり上げ)が禁止されている例が多い。対象は食料品を含む生活必需品が多いが、平時には適用されない。
これよりさらに厳格な統制を敷いている中国や韓国でも、必要に応じてコメを含む主要穀物の価格統制や輸入制限を強化する例が見られるが、これもあくまで緊急事態に限った話である。
“商品”に関する法規制は、国際的に見ても需給ひっ迫時や食糧危機時に措置を発動できる仕組みにとどまっているというのが大勢を占めており、平時の転売を違法とはしないという大枠では一致しているのだ。
チケット転売が明確に「違法」となった一方で、生活必需品転売の法整備が遅れているのには、「興行権の保護」と「市場商品としての流通規制」という性質の違いが大きく影響している。
しかし、コメは日本人の主食であり、商品という枠組みを超えた「公共財」としての側面は否定できない。
最近のコメ転売の広がりを見ると、今後、幅広い品目で買い占めと値段の吊り上げが発生するは十分に考えられる。そうなった場合の社会的影響が大きいことは明らかだ。
誤解を恐れずに言えば、「チケットの転売」の影響を受ける人の数と、「コメの転売」の影響を受ける人の数には大きな開きがあるはずだ。そうであるにもかかわらず、平時においては後者は合法で、前者が違法という構造はいささか歪ではないだろうか。
コメや生活必需品についても、臨時措置を繰り返すだけでなく、必要に応じて常設法や監視体制を整え、チケット転売同様に「やってはいけない行為」としての周知と取り締まりが進む可能性は否定できない。
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