chocoZAPが掲げるのは、「フィットネス=運動をしに行く場所」という従来のイメージを超え、「日常のあらゆる空き時間に何かしたいと思ったときに使える場所」に進化させることだといえる。カラオケを導入する店舗を増やす動きは、その戦略の象徴的な一例である。
セルフ脱毛やエステ、ネイルもそうだが、これらは高額な専門サロンに行くほどでもないが「やってみたい」「ちょっとお試しで使ってみたい」という層を取り込む効果がある。カラオケについても「一人カラオケで大声を出す機会が欲しい」「思い立ったときに気軽に歌ってみたい」といったライトユーザーを想定している。
さらに、たとえカラオケに興味がなかったとしても、「会費を払っているなら試しに使わないともったいない」と考えて実際に利用してみる人が増える可能性もある。こうした「あまり利用してこなかった層を新規の利用へ引き込む」こと自体が、顧客満足度と継続率の向上につながり、最終的に「思ったよりコスパがいい」と感じさせる効果を生むわけである。
chocoZAPは一時期、積極的な広告投下で会員数を増やしたが、現在は店舗品質や修繕体制、サポート施策などへリソースを再配分している。この方向性がいつまで続くか、今後も注視する必要がある。いずれにしても、既存会員の離脱を防ぎ、サービス利用頻度を高めることが利益改善に直結するため、設備投資やメンテナンスの充実は不可欠である。
chocoZAPが今後さらに成長するために、以下の3点が鍵になるだろう。
プールやスタジオレッスン、スパなどが不要な層にとって、「必要なときだけ好きなサービスを使える」というchocoZAPの自由度は魅力的だ。高止まりしている総合型クラブの会費を嫌う層をいかに取り込むかが、今後のさらなる会員数拡大のポイントといえる。
カラオケはあくまでも“顧客のスキマ時間を埋める”ための一手段にすぎない。今後はカラオケ以外にも何らかのサービスを追加する可能性が高い。カフェスペースやワーキングスペースといった要素を加え、さらに“来店理由”を増やしていくことも考えられる。
30〜40代のビジネスパーソンを中心に「少ない空き時間で効率よく楽しみたい」「費用をかけすぎずに健康や美容もケアしたい」というニーズは今後も強まる見込みである。chocoZAPがこうした層に対して“ジム以上の役割”を提示できるかが、さらなる差別化の鍵になるだろう。
総合型クラブからの離脱層を含め、多様な利用者のニーズを取り込みながら、RIZAPグループ全体の収益を下支えするchocoZAP。フィットネス業界における新たな成功モデルとなる可能性を秘めている。
有限会社金森マーケティング事務所 マーケティングコンサルタント・講師
金沢工業大学KIT虎ノ門大学院、グロービス経営大学院大学の客員准教授を歴任。
2005年より青山学院大学経済学部非常勤講師。大学でマーケティングを学び、コールセンターに入社。数万件の「本当の顧客の生の声」に触れ、「この人はナゼこんなコトを聞いてくるんだろう」と消費者行動に興味を覚え、深くマーケティングに踏み込む。(日本消費者行動研究学会学術会員)。
コンサルティング会社・広告会社(電通ワンダーマン)を経て、2005年に独立。30年以上、マーケティングの“現場”で活動している「マーケティング職人」。マーケティングコンサルタントとして、B to B・Cを問わず、IT・通信、自動車・電機・食品・家庭用品メーカー、金融会社、生損保、自動車販売、EC等、幅広い業種に対応し、新規事業・新商品開発・販売計画・販売のテコ入れ案・コミュニケーションプランの策定等、幅広くマーケティング業務の支援を行っている。講師としても業種を問わず、年間100コマ以上の企業研修に登壇。コンサルティング経験を元に企業課題に合わせた研修のオリジナルのコンテンツやカリキュラムを提供。研修によってマーケティングを「知っている」だけではなく、「業務に生かせるようになること」にこだわっている。執筆は、「初めてでもマーケティングが楽しく体系的に学べる本」をテーマに10数冊刊行。「3訂版 図解よくわかるこれからのマーケティング」(同文舘出版)など。
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