筆者はカスタマーサクセスのプロとして、法人取引における受発注の事例をさまざま見てきた。営業を受けるとき、何かの投資をするとき、その成功率を高めるためにはいくつかポイントを押さえる必要がある。
商品やサービスがあふれ、処理できないほど仕事での情報量も増えている時代だ。「買う側」が売り手の質を見極める力を伸ばしていかなければならない。偽物を見抜き、本物に金も時間も投資をすることが重要だ。
最も危険なのはずばり、「顧客が営業に丸投げ」状態である。
日本はまだまだ取引において、「お客さまは神様である」という営業姿勢の会社が多い。そしてこれは発注側の勘違いを生みやすい。つまり、営業は何でも自社の言うことを聞いてくれるし、かなえてくれると楽観視しがちなのだ。顧客が営業に対して横柄な態度を取るシーンも少なくはない。
しかし、営業への発注は「投資」活動となる。丸投げしていたり向こう任せにしたりしてはうまくいかない。取引は共同作業であり、営業を受けて自身が発注したと言えども、あくまでこれは自社の仕事。成果については、自社で責任を持たないといけない。
仕事のプロセスも成果も、丸投げな姿勢はすぐに分かるものだ。発注側が協力的にならないと、無難な距離を保たれ、熱のこもらない仕事が納品されてしまう。
営業は数多ある職種の中でも最も嫌われる職種の1つと言われており、営業を受ける態度として相手を軽んじるケースは少なくない。そうしたくなるような、レベルの低い営業も実際数多くいる。
しかし、営業を受けることは、実は新しい投資の情報を得るチャンスなのだ。自社の課題解決につながるヒントとなり、自社や自部門、そして自分自身を救う切り札になるかもしれない。営業にはそんな側面もあるので留意したい。
そのため、どんな営業が来ても、真摯に話を聞きながら、対話していくことが重要だ。投資の成功確率を高めるためには、営業が持っている知識や事例、ノウハウをできるだけ引き出すことに努めたい。
営業は製品の紹介をしてくるだろうが、話を聞きっぱなしにするのではなく「そもそも自社の経営課題に対してはどのように適用されるものなのか」などと質問し、営業と対話をしよう。「実際どれほどの効果が期待できるのか」「どんなスケジュールで投資は回収されるのか」など営業を受ける側も考えながら発言。議事録を双方で読み合わせながら、営業と自社とで建設的に議論していくことが望ましい。
互いに成功するための仮説を持ち寄りながら、これなら取引がうまくいきそうだという絵姿を共同で描いていくことまでできるとベストだ。
議論していく中で、この会社は果たして自社のパートナーとして適切なのかを見抜く必要がある。本物のふりをした“偽物”はたくさん存在するものだ。
「お客さまのため」だと、高尚なビジョンやミッションのようなものを掲げて、綺麗な言葉を吐き出しながら、本音は自社の製品を売って数字をかせぎたいだけの営業なんてわんさかいる。対話の中で、具体的に自社の課題や業務に対してどう応えてくれるのか、営業の案を聞いたり、自分の仮説を確認したりするといい。
悪い営業は提案やフィードバックが浅く、抽象度の高い言葉でごまかす。レスポンスがやけに早く、しかも自信満々に、ストーリーも込めながら話されると、雰囲気に流されてしまうケースがあるので気を付けよう。よくよく話を聞いてみて、これは具体性や実現性が薄い提案だなと思ったら、営業の話に対して一歩引いて冷静に見直すべきだろう。
ひどいケースでは、最も重要な投資に対するリターンに対して、一見それらしい表現でごまかす。そして知名度や過去案件の大きさのみアピールして表面的に感動させ、契約にこじつける“ずるい”会社もある。
やたらと有名企業の名前を出したり、世の中を変えると誇張したり、高尚な話題を持ち出し、聞きなれない最新のキーワードを使って、買い手側の思考を停止させる。まるでカルトな営業スタイルだ。受けた話を冷静になって文字起こしをして振り返ると、論理が飛躍していたり、自社をよく言い過ぎていたり、救世主のようで実はペテンのような営業になっている会社もある。
そんな会社には引っ掛からないように注意したい。やけにデザインが凝っていたり、経営者が高尚な話ばかりをしていたり、大きな会場を貸し切ったり、有名企業出身の社員ばかりを採用していたり……。感情的にすごいと思ってしまい、流されてつい発注してしまう。しかし、冷静に考えてみてほしい。これらは買い手側の自社の課題解決とは、実は関係のないことだ。そんな会社に発注しても失敗しやすい。
思考停止せず建設的に、課題解決の具体策やROIについて営業と議論する。密な対話の中で納得し、成功の道筋が見えたら発注する。これが買う側が成功するためのマインドセットなのだ。
今回は、営業の受け手として、買う側が成功するための姿勢について解説した。
重要なのは、勢いで流されない論理性だ。発注とは投資であり、自社を成功させるための第一手である。感情が高ぶったから買うことに決めたというのは避けたい。また上司や決裁者のみなさんは、そんな様子の稟議が上がってきたら流されずにNOを唱えるべきだ。
ぜひ本記事で解説した「買い手側のマインドセット」を、次回営業を受ける際に思い出してほしい。
2018年株式会社openpageを設立。顧客取引のDXソリューション「openpage」を提供、米国流のカスタマーサクセスやセールステックについて最先端の情報を国内で広く啓蒙。2024年にはキヤノンマーケティングジャパン株式会社と資本提携を行い、国内大手企業のデジタルセールス戦略推進を支援している。著書に「実践カスタマーサクセス BtoBサービス企業を舞台にした体験ストーリー」(日経BP、2023年)。ITmedia ビジネスオンライン「新時代セールスの教科書」にて連載中。
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