この記事は、田村耕太郎氏の著書『地政学が最強の教養である』(SBクリエイティブ、2023年)に、編集を加えて転載したものです(無断転載禁止)。なお、文中の内容・肩書などはすべて出版当時のものです。
「地政学の思考法」とは「『地理』と『6つの要素』にその国の条件を入れ込むことで、『その国のトップの考え』が決まる思考の枠組み」だ。それによって、「その国の元首になる“ロールプレイングゲーム”」をしてみよう。
ここでは、「地政学の思考法」の「6つの要素」について、解説していこう。「6つの要素」は以下である。
また、同時に、ぜひともオーソドックスな地球儀やGoogle Earthを見ながら読み進めてもらいたい。地形によって色を変えている伝統的な地球儀を見れば大陸が砂漠なのか、山なのか、森林なのかが一目で分かるからだ。
国境が自然の形状、山脈や大型河川などに沿ったものなのか? それとも平たんな陸続きなのか? 深い海に隔てられているのか? 人為的に引かれた直線なのかも分かる。
海の深さも重要だ。そのためもし買うなら、海の深さによって濃淡がつけられている地球儀がいい。ただGoogle Earthなら、これら地理的形状の詳細がかなり精緻に分かるので、おすすめだ。
気候とは、天気、気温、降水量、風の強さや向きなど。年により多少の違いはあるが、1年ならびに例年を通して、平均的なその地域の特徴を表す。
地球の緯度により、熱帯気候、乾燥帯気候、温帯気候、亜寒帯気候、寒帯気候に大別される。特筆すべきはG7など先進国と呼ばれる国の大半は、北緯30〜60度付近、四季があり、比較的温暖な地域に集中していることだ。日本、米国はその代表例であり、地理的恩恵をかなり受けている(図表4)。
逆に、この緯度から赤道に向けて外れている中南米やアフリカなどは気温が高く、砂漠やジャングル地帯であるなど、人が暮らすには優しくない。北極に向けてこの緯度から外れているロシアやカナダや中国北部も同様だ。
地理が決まれば、気候も必然的に決まるのである。もちろん、今後、気候変動でこれらの気候も変化する。その時は地政学的条件が変化するので多くの国が安全保障上の行動を起こすことになるだろう。気候変動が安全保障に及ぼす影響はすでにさまざまな場で指摘されている。
気候が変われば獲れる食物も変わる。信仰される宗教にも影響がある。土地の利用の仕方も変わる。それらは国のトップの安全保障上の行動に間違いなくインパクトを与えるのだ。
「地理」が決まれば、「周辺国」が決まる、自明のことでもある。個人では引っ越しも移住もできるが、国家は引っ越しはできないのだ。
ロシアと中国は地理的に14もの国々と国境を接している。そして、中国とロシアは世界一長い国境線を共有している。両国とも大国ではあるが、国境線の長さと陸続きの国の多さとその体制や宗教の違いを考えると気が休まる時はないであろう。
対して、わが島国日本は海に囲まれ、陸続きで国境を接する国はゼロ。米国もカナダやメキシコと国境を接しているが、両国とも米国のGDPの10%以下と、相対的には小国だ。過去はメキシコと争いはあったものの、それ以外は大西洋と太平洋という大洋によって守られている。
他国を攻める国のことを日本人が理解できないのも無理はない。ただ、レアケースなのはそのような国ではなく、むしろ陸続きの隣国の全くない日本の方なのだ。
反対に、ロシアと接している14の国側に立ってみると、どうだろうか。こちらも相当な危機感があるだろうが、ウクライナ戦争を経て、それは増すばかりだろう。実際、ウクライナ戦争後に、ロシアと1300キロにわたる国境線を共有するフィンランドはNATO加盟を申請している。国境を直接には接しないが、ウクライナ戦争が始まる前は中立国であったスウェーデンもNATO加盟を目指すこととなった。エストニア、ラトビア、リトアニア、ポーランドはすでにNATOに加盟している。
さて、海という天然の要塞に守られてきた島国も、隣接するランドパワーの強大化・進化する軍事力の前に危機感は増している。日本や台湾という島国を陥落させることは現代の兵器でも容易ではないが、ミサイル兵器の進化やサイバー攻撃との併用で、島国の弱点である兵糧攻めにあう可能性も浮上してきている。ましてや、中国とロシアそして北朝鮮が、敵の敵は味方とばかりに協力する部分が出てきたらなお一層厄介である。もちろん、中国とロシアは同床異夢の部分もお互いへの不信感もあるので完全なコラボは無理であろうが。
地理が決まれば気候が決まり、周辺国が決まる。そうなると気候とお隣さんでその国の民族性も影響を受ける。もちろん、後述する産業や歴史や統治体系もこれらに影響を与え合う。
天然の要塞・島国の人々はのんびりしてくる。陸続きで異民族の侵略を受け続ける国と異なり、多少の紛争はあっても基本は完全に支配されることは考えにくかったので、他国にも関心がなく、異民族との共生を試みた経験も少ない。島国根性とはこのことだ。
一方、島国でも大きくて気候にも資源にも恵まれた米国は世界中から多様な人々が集まり、衝突しながら新しいものを作っていく(後述するが、米国も地政学的には「島国」とされる)。もちろん国土が広ければ色々な考えの人がいて一概にはいえないが。
一方、多様性があふれているように見えるものの、それらは侵略によって支配する形で異民族を自国に取り入れていった中国やロシアは、多様性への接し方が自発的に多様な人が集まった米国とは異なる。米国は差別はあるものの、それらを乗りこえようとして多様性を尊重し合おうというカルチャーが生まれている。
一方、侵略戦争に勝つ形で敗者として異民族を取り込んできた強権国家では、「敗者である異民族を平等に扱うのか」という考えも存在し、自発的に多様性が集まった米国とは人権含めて多様性への対処に違いが出る。
大国に隣接する半島国家の人々は一般にのんびりとはいかない。半島の背後は海であり、文字通り背水の陣が日常だ。半島の入り口を山脈がブロックしてくれているイタリア半島やイベリア半島やインド亜大陸は天然の要塞といえるので比較的侵略を受けにくい。一方で半島の入り口が天然の要塞で守れているとはいえない、インドシナ半島や朝鮮半島は大国により蹂躙(じゅうりん)されたり、代理戦争の舞台になってしまうことがある。
中国と陸続きの半島にある韓国が中国から受けるプレッシャーは、隣国とはいえ海を隔てているわれわれ日本とは比べものにならないだろう。ベトナムの中国への警戒心や反発も地形上相当なものがある。
インドは亜大陸で大きな半島ともいえるが、ユーラシア大陸との連結部分の大半は、インドが小型の大陸としてユーラシア大陸に衝突した時にできたヒマラヤ山脈で守られている。
しかし、その西の端であるカシミール地方はヒマラヤ山脈の防御が手薄になっている。そこで中国との衝突が繰り返され、この地域の人たちを中心に中国への警戒心は相当なものがある。過去にはここからアレクサンダー大王の侵略を受けた。
先述した通り島国日本も、中国、ロシア、北朝鮮に囲まれ、今後はのんびりした姿勢を続けるわけにはいかないだろう。
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