『ワンピース』放送枠、なぜ「日曜深夜」に? コンテンツ戦略の深いワケエンタメ×ビジネスを科学する(2/3 ページ)

» 2025年03月27日 08時00分 公開
[滑健作ITmedia]

配信時代におけるテレビ放送の役割変化

 かつてテレビ放送は、アニメ作品を視聴する上での必須チャネルであった。しかしNetflixやAmazonプライム・ビデオ、HuluやU-NEXTなどの配信サービスが台頭した現在、視聴者は放送時間にしばられることなく、いつでもどこでも好きな作品を楽しめるようになった。単に視聴するだけであれば、テレビ放送である必要性はなくなったのである。

 その環境下で浮上するのが「アニメ×テレビ放送の新たな役割とは何か」という問いだ。

 答えの一つは「同期性」という価値である。X(旧:Twitter)やInstagramなどのSNSを通じてリアルタイムに感想を投稿・閲覧・共有できる現代において、全国に散らばる視聴者が同じコンテンツを同時に視聴している環境は、テレビ放送ならではの特性といえる。

 この「同期性」発揮の代表例として挙げられるのが、日本テレビの金曜ロードショーにおける『天空の城ラピュタ』だろう。SNSが浸透するはるか以前の2000年代前半から、インターネット掲示板を中心に同時視聴を行う文化があり、本作品は特に同時視聴者が多いコンテンツとして知られていた。クライマックスにおける「バルス」と同時にあまりに多くの「バルス」が投稿されサーバが落ちるという話は、聞いたことがある人も多いのではないか。

 時代を経て、現在ではSNSに場を移し、放送されるたびに「バルス」がトレンドに上がり続けている。このような同期性を生かした体験は、現在の生活形態においては日常の中の非日常、イベント性を持った価値といえるだろう。

「バルス」という台詞がSNSでたびたび話題になる『天空の城ラピュタ』(出典:スタジオジブリ公式Webサイト)

 同じコンテンツを好む見知らぬ人々と、同じ時間に同じ作品を視聴し、同じように感情を共有する体験。かつては家族や友人と、物理的に同じ場所でテレビを囲む当たり前の「日常体験」だったものが、時代を経て形が少し変わり「非日常体験」として新たな価値を持つようになったのは興味深い。

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