1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックベンチャーにて証券会社の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、2022年4月に広告枠のマーケットプレイスを展開するカンバンクラウド株式会社を設立。CEOとしてビジネスモデル構築や財務等を手がける。Xはこちら
毎年4月1日になると、SNSや企業サイト、広告などで飛び交うエイプリルフールの“嘘”が話題になる。
しかしここ数年、企業による「おふざけ」や「衝撃発言」を意図した投稿が、思わぬ炎上につながるケースが後を絶たない。
2025年に最も“やらかし”たのは、ほっかほっか亭だろう。「ライスの販売を一時停止する」旨をSNSに投稿したが、これをジョークとして好意的に受け止める動きは少なく、米価高騰に悩む消費者心理を逆なでする結果となった。
「もう飽きた」「正直迷惑だ」――。SNS上にはそんな呆れや不満の声があふれ、企業のエイプリルフールの取組にはもはや“リスク”しか残っていないように映る。
しかし、あのGoogleですらクレームの嵐を引き起こす大失敗を引き起こしてしまったことがあるように、過ちを犯す企業は後を絶たない。なぜ、企業は失敗してしまうのか。
「当店では本日よりライスの販売を一時停止します。おかずのみでの提供となりますのでご了承ください」
4月1日午前、大手弁当チェーン「ほっかほか亭」が公式SNSで発表したこの告知は、よく見るとエイプリルフールであることが分かるものではあったが、パッと見た程度ではジョークと判断できるような文面ではなかった。
周囲の混乱をさらに煽ったのが、拡散スピードの速さだ。SNSで「今日からライスがないとか本当?」「主食なしの弁当って意味不明」などの書き込みが続出し、真偽を確かめる前に多くの人が「ショッキングな出来事」として受け止めてしまった。
結果として「消費者を混乱させる悪質な嘘だ」という批判や、「だまされた」「店頭で確認したが通常通り販売していた」といった不満の声が一気に広がり、企業イメージを大きく損ねる事態に発展した。
広報担当があわてて謝罪と訂正をしたものの、混乱収束には時間がかかった。同日には、本物の新メニュー「とりめし焼きそば弁当」などの告知も行われたが、炎上でかき消されてしまった。
実はこの手の「笑いを誘うはずが、世間の反発を買ってしまう」という失敗は、あのテック巨人も経験している。
2016年、Googleが提供する米国版Gmailの送信ボタンの隣に、エイプリルフールの新機能として「マイクドロップ」ボタンが設置された。
これを誤って押してしまうと、どんなに大事な商談のメールでも、ジョークのGIF画像が相手に送られてしまうというものだ。本来の送信ボタンより目立つ色で強調されており、誤クリックが続発。多数の苦情を受けてGoogleは謝罪し、機能を取り下げた。
こうしたトラブルの背景には、顧客基盤や知名度の高い企業アカウントほど、たとえ“ジョーク”として発信した内容でも、さまざまな立場・地域の人々が受け取るため、誤解やハレーションが生じやすいというリスクが隠れている。
文字通りの意味で捉えてしまう人がいるのはもちろん、社会情勢や個人のコンディションによって「不謹慎だ」と不快感を覚えるユーザーも少なくない。結果、企業にとってはほんの思い付きで投稿したつもりでも、想像を超える規模で炎上する可能性が常に潜んでいる。
そうであるにもかかわらず、広い顧客層を有するB2C企業がその類のマーケティング施策を取ることは、「これが分からない消費者は切り捨てても良い」といったメッセージとして受け取られかねない。
SNSでのエイプリルフールが普及しはじめた当初は、さまざまな企画がネット上で大きな注目を集め、「面白い企業」や「ユニークな商品」を演出する好機と捉えられていた。
それに伴い大型の予算を投下して専用のWebサイトを構築したり、動画などのコンテンツを制作したりと各社がこぞって「ユーモアセンス」をアピールするようになった。
しかし、参入企業が増えるにつれて、消費者の興味が分散・希薄化し、“バズる”確率が下がっただけでなく、不用意な投稿や社会的課題に対する無神経な嘘への風当たりが強くなるという、「ハイリスクローリターン」の構造になりつつある。
2025年はほっかほっか亭の事例以外にも、著名な企業広報アカウントが不適切な嘘を投稿したことで大炎上する例など複数確認されている。
SNS時代のマーケティング戦略を考える上で、最も重視されるのは「いかにファンを獲得し、長く関係を維持するか」という点だ。
奇抜な嘘や炎上スレスレの企画は、一瞬の注目こそ集められるかもしれないが、消費者との信頼関係を損ねるリスクを抱えている。不要な炎上を招くくらいなら、この“年に一度の嘘祭り”を卒業して、素直に自社のサービスや社会貢献を発信する方がメリットが大きいのではないか。
炎上事例を教訓に、エイプリルフールに頼らない「信頼ベースの情報発信」を目指すことこそが、長期的なブランド価値の向上につながるだろう。
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