――巡視点検サービスでは、紙からデジタルに移行することで、現場の作業効率をどの程度向上させるのでしょうか。
大きく改善すると思います。例えば、水力発電所ではすでに導入が進んでおり、「楽になった」という声をいただいています。このサービスでは、紙ベースの点検記録がデジタル化されるだけでなく、異常値を瞬時に検知できる仕組みが備わっています。
例えば、通常10の値を記録していた機器が突然100という値を示した場合、システムが即座に異常を知らせます。その場で確認し、システムの誤動作や記録ミスであればすぐに修正できます。
また、データを蓄積しているため、トレンド分析も可能です。例えば、数値が徐々に増加している場合、その傾向を把握して早めに対応できます。
――火力や水力など、電力ごとの市場規模について教えてください。原子力も含まれるのでしょうか。
原子力もゼロではありませんが、適用例は少ないです。また、原子力発電所では運転データが外部に出ることへの懸念が強く、クラウド型サービスの導入にはハードルがあります。そのため、オンプレミス型で一部導入された実績はありますが、大きな市場とは言えません。一方で火力や、水力、太陽光、風力、バイオマスといった再生可能エネルギー、管理機器の多い送配電・変電の分野は需要が高く、TOSHIBA SPINEX for Energyの主要ターゲットとなっています。
――原子力分野への展開は難しいということでしょうか。
原子力分野では特有の事情があります。国内では発電所ごとにメーカーが異なり、当社を含めた重電メーカー3社が建設の対応をしてきた経緯があります。このため、自社製以外の原子力発電所への参入には高いハードルがあります。また、原子力発電所自体の数も限られているため、クラウド版のTOSHIBA SPINEX for Energyの展開は難しいと考えています。
――今後の展開としては、火力や再生可能エネルギー分野が中心になるのでしょうか。
そうですね。火力の他、再生可能エネルギーと送配電・変電分野への展開を強化していきます。同時に一般工場にも注目しています。多くの工場ではGX(グリーン・トランスフォーメーション)の流れでCO2削減が求められており、TOSHIBA SPINEX for Energyの予測・最適化ツールを活用してCO2排出量削減を支援できます。この分野でも需要拡大を目指しています。
――発電所ではない、再生可能エネルギー事業者など工場向けソリューションも展開していますが、その内容について教えてください。
工場向けには、トポロジーツールなどを応用したソリューションを提供しています。このツールは直感的な操作で最適化モデルを構築できるため、例えば、生産工程やエネルギー消費量の最適化にも応用可能です。このような柔軟性を持つサービスによって、多様な業界での需要拡大を図っています。
――この一般工場向けのサービスは、発電設備を持たない工場も対象となるのでしょうか。
一応対象とはなります。ただし発電設備を持つ工場の方が、運用の最適化の幅が広がります。一般的な工場では再生可能エネルギーの購入や省エネ診断でとどまるケースが多いですが、発電設備を持つ工場の場合は、さらに深い提案が可能です。
――最適化トポロジーツールとは、一言で言うとどのようなシステムでしょうか。
トポロジーツールは、さまざまなエネルギー機器や需要機器をモデル化し、効率的な運転方法をシミュレーションすることで最適化を図るシステムです。例えば、CO2削減を目指す場合、このツールを使って現状の運転状況をモデル化し、改善案を試算することで具体的な効果を予測できます。
例えば、運転方法の見直しによってCO2削減量が52トンになるといった試算結果が得られることもあります。このように、実際の機械で検証する前に効果を計算できるため、運転員の負担軽減や効率化につながります。このツールを当社エンジニアが使用して顧客の課題を解決するサービスは「GXエンジニアリング」として提供しています。
――このサービスはいつ頃から提供されているのでしょうか。
提供開始は約2年前です。TOSHIBA SPINEX for Energyのソフトウェアが基盤となっています。現在は、このツールを顧客自身が利用できるよう開発を進めており、電力会社だけでなく再生可能エネルギー事業者や一般工場にも展開することを目指しています。
――このサービスにおける東芝の強みとは何でしょうか。
東芝の強みは2つあります。まず、再生可能エネルギーの集約事業を展開している点です。太陽光・蓄電池・風力・水素・カーボンキャプチャーなど幅広い再生可能エネルギーのソリューション提供能力があり、実際の運用を把握した最適な運用をできます。また再生可能エネルギー卸しの事業もあり、再生可能エネルギーの供給や非化石証書の取次などを行うことで、顧客のカーボンニュートラル実現に貢献でき、この分野でのビジネス拡大が可能です。
次に、省エネ診断だけでなく、熱エネルギー効率化まで踏み込んだ提案ができる点です。他社では電気の省エネ提案が中心ですが、東芝はボイラーや発電機など熱関連設備に関する知見を持つエンジニアが多く在籍しています。そのため、熱エネルギーも含めた包括的な効率化提案が可能であり、顧客にフィットしたソリューションを提供できる点が強みです。
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