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新規客5%増 しゃぶ葉も驚いた「ホイップクリーム」の絶大なる効果とは

» 2025年05月13日 15時45分 公開
[仲奈々ITmedia]

この記事は、顧客プラットフォーム「coorum」の開発・運営を行うAsobica(東京都品川区)が開催した「外食業におけるCX最新動向に関するメディア向け勉強会」をレポートした記事の後編です。

 過度な価格競争や人手不足による客数の減少など、外食産業を取り巻く環境は、近年厳しさを増している。そんな中、顧客体験(CX)を向上し、顧客の熱狂を企業の成長につなげている企業がある。

 前回の記事では、「塚田農場」を運営するエー・ピーホールディングスのコアなファンづくりの取り組みを紹介した。今回は、すかいらーくホールディングスが運営する「しゃぶ葉」のCX向上施策を紹介する。

前編:顧客を“沼らせる”塚田農場の「YOSENABE」戦略 飲食店の「限界」をどう乗り越えるか

「客の本音」を見極め業績アップ 「しゃぶ葉」はコロナ禍をどう乗り切ったか

 すかいらーくホールディングスはガストをはじめ国内外約30ブランド、約3000店舗を展開する大手外食企業だ。今回は、食べ放題業態「しゃぶ葉」(国内301店舗)におけるCX戦略を中心に紹介する。

 同社は顧客向けポイントアプリ「すかいらーくポイント」(会員数1200万人、月間アクティブ470万人)、テーブル決済機能、社内版タイミーとも言える「スポットクルーシステム」など、さまざまなDXの取り組みを推進している。マーケティング本部 和食開発グループ ディレクターの岡田智子氏は、これらを通じて顧客体験(CX)と従業員体験(EX)双方の向上を図っていると話す。

 しゃぶ葉がCX向上に本格的に取り組み始めた背景には、コロナ禍でのファミリー層を中心とした顧客離反と、それに伴う過去の顧客データの無効化があったと振り返る。

 「生活様式の変化で、今来ていただいているお客さまが何を求めているのか、その方々に提供できる価値は何かを短期間で知り、開発・提供していく必要性を痛感しました」(岡田氏)

なぜしゃぶ葉がCX向上に力を入れるようになったのか(提供:Asobica)

 しゃぶ葉では、「よりリアルで解像度の高い顧客理解」と「来店トリガーの発見」を急務とし、顧客の声を集め、それを生かしてブランドへの共感・愛着・信頼を醸成することを目指した。2022年からは全社的に顧客の声(アンケート、お客様相談室への意見など)を全部門で毎日確認し、顧客満足度向上を目指すためのQSC向上委員会を設置。その影響は、しゃぶ葉の顧客満足度の向上だけでなく、グループ全体にも広がっていった。取り組み後、グループ全体の顧客総合満足度が81%から85%へと引き上がったのだ。

しゃぶ葉のVoC / 体験データを活用したCX向上戦略(提供:Asobica)

ファンと商品を共創 「おやさい学校 しゃぶしゃ部」の成果

 さらなるCX向上を求め、店舗、すかいらーくアプリ、SNS、オーダー端末アンケート、お客様相談室といった顧客との多様な接点に加え、Asobicaのプラットフォームを活用したファンコミュニティー「おやさい学校 しゃぶしゃ部」を導入した。

(プレスリリース)

 コミュニティーでは、ファンの声を商品開発やサービス改善に生かす体制を構築している。

しゃぶ葉(すかいらーくホールディングス)のCX向上施策事例

アレンジのサジェスチョン強化と新だし共創:コミュニティー会員と共に新だしを開発する「共創だしプロジェクト」を実施。博多豚骨だしや鶏塩だし開発時には、試食会での顧客の声を元に追加した「焦がし醤油だれ」や、「うどんが合う」といった想定外の発見をメニューブックに反映。顧客と共創しただしは、社内発案のだしと比較して、売上数量で圧倒的な成果を上げた。

商品共創プロジェクト(提供:Asobica)
商品共創プロジェクト(提供:Asobica)

ホイップクリーム導入による新規顧客獲得:コミュニティーでの「デザートアレンジの幅を広げたい」という声を受け、ハロウィン時期に「お化け選手権」と題したホイップクリームのテストキャンペーンを実施。SNSで大きな反響を呼び、「この施策があったから初めてしゃぶ葉に行った」という声も数多く届いた。期間中、約5%の新規来店につながった。

ワッフルから見えた顧客インサイト:もともとデザートとして導入したワッフルについて、コミュニティー内で「食事としてもおいしい」というお肉や野菜をくるんだアレンジ、「ワッフルドッグ」が流行。この経験をメディア露出やメニュー提案に活用し、好評を得た。また、「楽しみ方、好き放題!」というブランド訴求軸を発見し、CM展開にもつながった。

「こまめどりプロジェクト」の共創展開:フードロス削減を目指し、「こまめに食材を取り、きれいに食べたらクーポン進呈」という「こまめどりプロジェクト」を発足。コミュニティー会員との座談会を通じてキャラクター開発や展開方法を共に考案し、拡大している。

 「私たちは、お客さまから教えられ、支えられています。そして、お客さまの本音が今の業績につながっているのです。この経験を店舗スタッフにも共有し、お客さまのリアルな声に基づくサービス提供を通じて、今後さらにCXとEXを同時に向上させていく予定です」(岡田氏)

顧客の本音を起点としたCX戦略が、外食産業の未来を照らす

 本セミナーでは、外食産業が直面する課題と、それを乗り越えるためのCX戦略の重要性が改めて浮き彫りになった。

 エー・ピーホールディングスの買い手をも巻き込む∞次産業モデルへの挑戦や、すかいらーくホールディングスの「楽しみ方、好き放題!」というコンセプトを軸とした顧客との価値共創」。いずれも顧客の「本音」に真摯に向き合い、それを起点としたCX向上に取り組んでいる点が共通していた。

 顧客とのつながりを深め、熱狂的なファンをいかにして育んでいくかが、今の時代の外食産業の成長の鍵となる。今回のセミナーは、そのための具体的なヒントと勇気を与えてくれるものだった。まずは自社の顧客の声に耳を澄ませ、小さな一歩からCX向上の取り組みを始めてみてはいかがだろうか。

前編:顧客を“沼らせる”塚田農場の「YOSENABE」戦略 飲食店の「限界」をどう乗り越えるか

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