この記事は、顧客プラットフォーム「coorum」の開発・運営を行うAsobica(東京都品川区)が開催した「外食業におけるCX最新動向に関するメディア向け勉強会」をレポートした記事の前編です。
外食産業を取り巻く環境は、近年厳しさを増している。新型コロナウイルスや物価高騰などの影響で、「通りすがりで何となく入る」という消費行動が減少。外食産業はこれまでとは異なる方法で、生活者に選ばれる必要性が高まっている。
そんな中、顧客体験(CX)を向上し、顧客の熱狂を企業の成長につなげている企業もある。
顧客プラットフォーム「coorum」の開発・運営を行うAsobica(東京都品川区)は、「外食業におけるCX最新動向に関するメディア向け勉強会」を開催。当日は「塚田農場」を運営するエー・ピーホールディングスと、「ガスト」や「しゃぶ葉」を運営するすかいらーくホールディングスが取り組む「ファンづくり」について、リアルな事例を語った。
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外食産業においてCXが強くトレンドとして浮上してきた背景には、従来の商圏戦略やメニュー・価格中心の戦い方がコロナ禍以降通用しづらくなったこと、物価上昇による外食控えという生活者の変化などがあると、Asobica 事業推進室 室長の佐藤頌太氏は語る。
「現在の外食産業各社には、価格や立地だけでなく、『この店に行きたい』と選ばれるブランド・お店作りが求められています。その鍵を握るのがCX。つまり『この店に来てよかった』『また購入したい』という顧客の満足感をいかに高めるかです」と佐藤氏は指摘する。
満足度を高めるには「顧客が今提供している商品・サービスの何に満足しているのか。どこが強みで、何を改善すればもっと喜ばれるのか」という顧客体験の深い理解が不可欠となる。
佐藤氏は顧客体験を「お店に来る前」「お店にいる時」「帰った後」という3つの時間軸と、「行動」「心理」という2つの軸で整理し、この6つの領域で顧客を理解することが重要だと話す。特に人口減少や外食控えの現在の状況下では、リピート来店につながる顧客の心理を把握することが重要だ。
しかし、Asobicaの調査では、多くの企業が「顧客の声(≒パーソナルデータ)の収集ができていない」「集まっても、うまく分析・活用できていない」という課題を抱えていることが分かっている。それを表すように、日本は顧客のパーソナルデータ活用において、諸外国と比べて遅れているというデータ(総務省「令和5年版 情報通信白書」)も示した。
多くの企業が顧客の声の収集から悩む中、顧客の声を上手に活用し、事業を拡大し続けている企業も存在している。
まず、「塚田農場」を運営するエー・ピーホールディングスの事例を紹介する。
同社は居酒屋から専門店、レストラン、中食、さらには地鶏の生産・加工まで手掛ける「6次産業化モデル」を展開している。取締役の横澤将司氏は、同社がCX向上に取り組む背景として「衝動的利用の減少」「競合との消耗戦」、そして独自の視点として「外食の3つの成長限界」を挙げた。
「3つの成長限界とは、餌代高騰や後継者不足による『生産の限界』、人手不足による『人材の限界』、そして所得低下やエンゲル係数上昇による『家計の限界』です。これらを乗り越え、持続可能な事業を行うためには、買い手である“お客さま”にも協力してもらう必要があると私たちは考えています」(横澤氏)
そこで同社が目指すのが、生産者・販売者・消費者が相互に連携し循環する新たなモデル、「∞(無限)次産業モデル」だ。その実現のために、これまで持っていた顧客との多様な接点(店舗、自社アプリ、SNS、ECなど)を統合し、顧客・生産者・従業員がつながるファンコミュニティサイト「YOSENABE」を立ち上げた。
「YOSENABEは、食の課題や生産者の思い、消費者の声、過去も未来も、都会も田舎も全部ごちゃ混ぜにして新しい価値を生み出す『寄せ鍋』のような場所です。この中で顧客と生産者、我々がつながり合うことで、大きなシナジーが生まれると期待しています」(横澤氏)
具体的には、YOSENABEを活用して以下のような施策を行っている。
生産者ストーリーによる体験価値向上:店舗でのメニュー説明(予習)、食事体験(本番)、アプリでの情報提供(復習)という流れで、食材の背景にある物語を伝え、顧客の記憶においしさや価値を定着させる。アルバイトスタッフが自ら生産者のこだわりを発信するなど、オンライン・オフラインで統一された体験を提供し、ロイヤルティ向上を図っている。
産地と顧客をつなぐオフラインイベント:常連客を産地ツアーに招待し、漁体験や生産者との交流を通じて「沼らせる」。これらの熱狂的なファンが、さらに他の顧客をひきつける好循環を生んでいる。
DXを活用した復興支援:モバイルオーダーの「推しエール(チップ機能)」で得た収益を、被災地の酒蔵や養鶏場へ寄付。顧客が食を通じて生産者を直接応援できる仕組みを構築している。
顧客の声をメニューに反映:例えば、「YOSENABE」に寄せられた「レバーパテにパンは付くのに、チーズフォンデュには付かないのはなぜ?」という声を受け、すぐにパンの単品注文をメニューに追加した。迅速な対応が顧客満足度を高めている。
これらの取り組みが、「買い手のイノベーション」につながり、結果的に持続可能な循環モデル、つまり「∞次産業モデル」を実現していくのだ。
「食のおいしさだけでなく、その裏側にある苦労や難しさをお客さまに理解してもらうことが、日本の食料自給率(実質9.2%)といった課題解決にもつながると考えています」(横澤氏)
将来的には、ファンコミュニティを起点に、顧客が季節労働者として生産活動に参加するなど、「ファンアクティビティ」を通じた新たな価値創造を目指しているという。
次回の記事では、すかいらーくホールディングスが運営する「しゃぶ葉」のCX向上施策を紹介する。
後編:新規客5%増 しゃぶ葉も驚いた「ホイップクリーム」の絶大なる効果とは
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