日本ではあまり馴染みがないが、海外では政治家や企業が自分に有利な情報操作を行うことを「スピンコントロール」と呼ぶ。企業戦略には実はこの「スピン」という視点が欠かすことができない。
本連載では、私たちが普段何気なく接している経済情報、企業のプロモーション、PRにいったいどのような狙いがあり、緻密な戦略があるのかという「スピン」をひも解いていきたい。
「1人も解雇するな」を経営哲学としていた松下幸之助氏が創業したパナソニックホールディングス(以下、パナソニック)が、1万人のリストラを断行する。
黒字であるにもかかわらず、これほどの大ナタを振るうのは「社員1人当たりの生産性が高い組織」へと構造改革を進めるためだという。同社の楠見雄規社長は、少し前にあった2024年度の第3四半期決算発表会でも、こんな危機感を口にしている。
「当社は30年間成長できていない。投資をして一時的に販売が上がっても、すぐに棄損(きそん)することの繰り返し。市場からも厳しい目で見られている。赤字になってからではお金も時間も余裕がなくなるので、利益が出ている今こそ」(ITmedia ビジネスオンライン 2025年3月31日)
1人当たりの生産性が低いので会社としても成長できない。そこで生産性を上げようと巨額の投資をするのだが、“打ち上げ花火”のように一時的に終わるだけで低迷から抜け出せない。そんな「失われた30年」が続く中で、今はどうにか過去の遺産で食いつないでいるが、このままでは確実にヤバい。そこで組織を根本的に生まれ変わらせようというわけだ。
そう聞くと、「ん? 生産性がまったく上がらず30年以上もジリ貧が続いているって話、他にもどこかで聞いたような……」と“デジャブ”(既視感)を覚える人も多いはずだ。
そう、実は生産性が低くて30年間成長できていないパナソニックの姿は、この国の低迷ぶりとまるかぶりなのだ。
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