2000年代以降、デフレが続いた日本では、物価が上がらない一方で賃金は下がり、低位安定が続いたことで、人件費を安く抑えることができた。図表1は2000年代以降の消費者物価指数と名目賃金、実質賃金の推移を時系列で示したものである。日本の賃金が上がっていないという話はよく聞くが、この表を見ると、実際には下がり続けていたことがよく分かる。
ざっくり言えば、(1)2000〜2012年は物価が上がっていないにもかかわらず賃金が下がったため、実質賃金はゆっくり目減り、(2)2013〜2020年は物価と賃金がともに緩やかに上昇し、実質賃金は横ばいからやや減少で推移、(3)2021年以降は物価が急上昇し、賃金も上昇傾向にあるが物価上昇に追い付かず、実質賃金の目減りがさらに加速。
そして現在は、実質賃金が最低水準まで低下した後、賃上げが加速してやや持ち直している状況である。つまり、この四半世紀、われわれの実質的な所得は減り続けており、外食産業などの労働集約的業態も、そうした労働環境を前提に設計されてきた、ということだ。
しかし、状況は大きく変わりつつある。ご存じの通り、生産年齢人口は急速に減少しており、人手不足は深刻化している。非正規従業員の安い人件費を前提とした労働集約的ビジネスモデルは、もはや維持が難しくなりつつある。
すき家や松屋では深夜加算料金を設定するなど、人件費上昇への対応を図っているが、今後も消費者に価格転嫁できるかどうかは不透明である。物価の高騰により、低所得者層の財布には余裕がなくなっており、低価格帯業態では値上げ後に客数が減少する傾向も見られる。実質賃金の底上げが進まなければ、外食の価格転嫁も難しく、稼働率の低い深夜帯の営業は、従来のままの構造では採算が合わなくなるかもしれない。
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