次に残念ながら2024年9月末で閉店してしまったのだが、原宿に店舗を構える「友達がやってるカフェ/バー」は、近年注目を集める“日常型イマーシブ体験”の一例といえる。このカフェでは、店員が「友達」という設定のもと、来店者を迎え入れる。
例えば「来てくれたんだ!」という一言から始まり、「いつものやつ頼むね」といった会話が自然に展開され、まるで本当に友人の働く店にふらっと立ち寄ったかのような感覚が味わえる。ここで重要なのは、演者(=店員)と来店者(=観客)の間にあらかじめ関係性が設定されており、観客自身がその関係性の中に「役割を持って参加している」という点である。つまりこのカフェでは、観客が単にサービスを“受ける”のではなく、「友達としての振る舞いを求められる」ことによって、演出に能動的に巻き込まれているのだ。
参考:「え、久しぶりじゃん」 店員がタメ口の「友達カフェ」が、どんどん新しい客を呼び込めるワケ
この構造は、メイド喫茶をはじめとする“コンセプトカフェ”とも共通する。メイドカフェでは「いらっしゃいませ、ご主人様」という一言によって、来店と同時に“主とメイド”という仮構の関係性が成立する。観客はその瞬間から、世界観の登場人物として振る舞うことが求められる。そこには、あらかじめ設定された物語空間が存在し、その中でキャストが演技を通じて非日常性を演出している。
こうしたコンセプトカフェにおける最大の魅力は、「人」が生み出すライブ性にある。空間デザインやメニューといった物理的な要素よりも、接客を担うキャストの“その場限りのやりとり”こそが、唯一無二の没入感を生み出す原動力となっている。キャストの演技やテンション、アドリブが空間を“生きた場”として成立させ、来店者自身がそこに巻き込まれることで、初めて没入体験が成立する。
このような「ただそこにいるだけでは成立しない没入体験」は、いわば非傍観型イマーシブと呼べる。観客は“見る人”ではなく、“関わる人”として物語の内部に位置付けられ、自らも振る舞い・応答しなければ世界観に浸ることができない。『友達がやってるカフェ』やメイドカフェといったコンセプトカフェは、その意味で「演じる観客」を必要とするイマーシブ体験なのである。
日常と非日常の境界が曖昧(あいまい)になるこのような体験は、舞台やテーマパーク型イマーシブ体験とは異なり、日常の延長線上に“物語の入口”を設けるという独自の形式を持っている。まさに、誰でも気軽に足を踏み入れることのできる「身近なイマーシブ」の一形態といえる。
他にも食事中にキャラクターと交流することができる東京ディズニーリゾートの「シェフ・ミッキー」を始めとしたキャラクターダイニング類や、アニメやマンガなどの世界観や作中に出てきた食べ物などを再現した料理を提供するコラボカフェなどもある。参加者が「見たことある!」と感じることで作品の世界を現実に引き寄せ、併せてキャラクターと同じものを“食べる”ことで、擬似的にその世界を“体内に取り込む”ような感覚を与える。
これは世界観の物理的具現化とも言え、架空の世界に“手が届いた”ような錯覚を与えている。このような体験は、「画面の外に飛び出した物語との接点」として非常に強い満足感と愛着を生み出し、それが結果的に「没入感」につながる。
しかし、当然のことながら、演じたり対話したりする必要はない。空間装飾・音楽・メニューを通じて“演出された世界に浸る”感覚を得る体験であり、あくまでファンや訪問者としての立場(登場人物ではない)である。それ故コラボカフェは、“食”を通じて作品世界を“体感させる”ことで、「作品世界の外縁に立ってのぞき込むような」観察型の没入感を提供している、といえるだろう。
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