MATSUI Bankの成功は一方で、新たな課題も浮き彫りにしている。課題の一つが、高金利維持戦略に伴うリスクだ。
同社の競争意識は具体的だ。「他社の金利水準は意識してチェックしている」と述べるように、常に他社の金利動向を注視し、わずかでも上回る水準を維持している。2025年3月に競合の一つであるSBI新生銀行が普通預金金利0.4%を発表した際も、素早く0.41%を打ち出して対抗した。
松井証券の顧客層は金利感応度が高い投資家が多いという特徴がある。こうした顧客にとって、わずか0.01%の金利差でも大きなインパクトを与えるため、「金利が最高水準でなくなった瞬間に他行に移ってしまうお客さまも一定いるだろう」と渡瀬氏は認める。高金利による顧客獲得は「もろ刃の剣」的な側面を持っている。
この構造は継続的な金利引き上げ圧力を生む。渡瀬氏によると「市場金利が0.1%上がったら、当社も0.1%上げる」のが基本的な考え方だが、「他社が無謀に1%出すと言ったら、さすがに無理」という限界もある。持続可能な収益構造の構築が課題となっている。
現状、MATSUI Bankの収益構造について渡瀬氏は「銀行単体での収益改善も取り組んでいく」としながらも、「あくまでメインは証券」と位置付ける。銀行サービスは証券取引への導線という役割が中心で、銀行業務単体での黒字化は今後の課題だ。
メインバンク化への挑戦も道半ばである。現在の利用状況について渡瀬氏は「サブ的な使い方が多い」と分析する。キャンペーンの実施など、給与振込や各種引き落としなど日常的な銀行機能の拡充により、顧客との接点を深める取り組みが続いている。
機能面では、証券口座から銀行口座への自動出金機能の実装が検討されている。「お客さまからのご要望をいただいている」機能だが、「システム面の対応がまだできていない」状況だ。大手ネット証券のようなシームレスな資金移動の実現が課題となっている。
日銀の金利引き上げを受けて、金融業界では預金獲得競争が激化している。各行が相次いで金利を引き上げる中、興味深い現象が起きている。高金利を持続的に提供できているのは、銀行業を本業としない異業種からの参入組という構図だ。
MATSUI Bankもその一例だ。証券会社という本業があるからこそ、銀行業務単体での収益性にこだわらず高金利を維持できる。これは従来の銀行業の常識とは異なるアプローチといえる。
ただし、MATSUI Bankは松井証券の口座開設が前提となるため、一般的な預金者への認知度は限定的だ。金利比較サイトでも独立した銀行として掲載されにくく、0.41%という高金利があまり知られていないのが実情だ。
一方で、実際の利用者からの評判は高い。UI/UXで定評のある住信SBIネット銀行のシステムをそのまま使用しているため、操作性や機能面での満足度は高水準を保っている。
今後、こうした異業種参入による高金利サービスが、金利の高さという分かりやすいメリットでどれだけの利用者を獲得できるかが、預金市場の新たな注目点となっている。MATSUI Bankの成長は、この新しい競争構図の行方を占う試金石の一つといえる。
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