キトニー社長の野心は現在の52%にとどまらない。「個人的には、そう遠くない将来に日本で90%台後半を目指したい」。
この目標は根拠のない願望ではない。「世界中の市場で、非接触取引の普及率が90%台後半になっているのを見てきた」からだ。約40ポイントの上積みが必要だが、「非接触導入のスピードは月ごとに加速し続けている」(キトニー社長)。
課題はインフラ整備と消費者意識だ。「全ての加盟店が非接触決済を受け入れられるようにする必要がある」とキトニー社長。決済方法の呼び方統一や、マークがあっても使えない端末の解消も急務だ。
では、iDやQUICPayはどうなるのか。
多くのプラスチックカードからは早晩消えそうだ。各社の発表に「共存」の文字はなく、「新規発行停止→既存カード期限切れ→完全消滅」の道筋が見えている。多くのカードで2025年から2026年が転換点になりそうだ。
ただしモバイル決済では当面残りそうだ。ドコモは「ANA PayやDeNA Payはモバイルのみで展開」と説明し、Apple PayやGoogle Payでも利用可能だ。
しかし、ユーザーがあえてiD/QUICPayを選ぶ理由は薄い。国際的に通用し、より多くの場面で使えるタッチ決済の方が便利だからだ。今はまだタッチ決済非対応でiDやQUICPayしか使えない店舗があるため意味があるが、早晩その状況も変わるだろう。
iDやQUICPayは、日本発の先進技術がガラパゴス化した典型例となるかもしれない。
技術的に劣っていたわけではない。店頭コミュニケーションの明確さ、処理速度の速さ、通信の安定性――実用面では優秀だった。Suicaと並ぶ普及を誇り、巨大なエコシステムを築いてもいた。
それでも、わずか4年で形勢は逆転した。グローバル化という大波の前で、いかに優秀でも日本の固有技術は「ガラパゴス」と化し、国際標準の「圧倒的な力」に屈した。
そして今、同様の選択を迫られているのがSuica機能付きクレジットカードだ。現在、Suica搭載クレジットカードの多くはタッチ決済に対応していない。これは必ずしも技術的な制約ではなく、JR東日本などの戦略的判断と思われる。
しかし、タッチ決済の普及が進めば、対応していないカードは競争上の弱点となる。ユーザーは「Suicaをとるか、タッチ決済をとるか」という選択を迫られることになるからだ。
インバウンド対応、事業戦略のグローバル化、運用コスト効率化――こうした要因が重なり、カード会社は国際標準への収束を選んだ。52%から90%台後半への道のりは、日本の決済インフラが完全に国際標準に組み込まれることを意味する。
それは利便性向上をもたらす一方で、日本独自の技術革新が世界に広がる機会の喪失でもある。技術の優劣ではなく「標準」が勝利した現実は、グローバル時代の日本の技術戦略に重要な教訓を刻んでいる。
【お詫びと訂正:6月17日午前8時の初出で、JCB社のQUICPayサービスに関する取扱いについて誤りがありました。6月23日午後2時、該当箇所を修正いたしました。お詫びして訂正いたします。】
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