そう聞くと「こいつは今回の日テレの対応は正しかったと言いたいのだな」と思うかもしれないが、そんなことはない。プライバシーを盾に沈黙を貫くのは「上場企業の危機管理」では珍しいことではないが、「報道機関の危機管理」では自らの信頼を損なう結果になりかねない。
「人には厳しく自分は大甘」という、世の中の人々が薄々勘付きつつある「テレビや新聞の偽善ぶり」をこれ以上ないほど分かりやすく世間に知らしめてしまうからだ。
ご存じのように、日本テレビは日本テレビホールディングスという上場企業の傘下の放送局である一方、全国で30社のネットワークでニュースを流している報道機関という顔も持つ。報道機関は首相官邸記者クラブをはじめ、日本全国の警察や役所の中の記者クラブに加盟している。この閉鎖的な社会の中で公務員と個人的な関係を築くことによって、一般のメディアやフリージャーナリストらが入手できない情報を得られる。
なぜそんな「優遇措置」を受けているのかというと、国民の「知る権利」に応えているという大義名分がある。だから、企業や有名人の不正・不祥事が起きると厳しく追及する。時に個人情報やプライバシーを持ち出して情報開示を拒否する企業もあるが、「隠蔽(いんぺい)ではないのか」や「説明責任を放棄するのか」などと逆に厳しく追及してきた。
分かりやすいのは、フジテレビの10時間会見だ。あのときも経営陣は「プライバシー」を理由に「詳細はお答えできません」を繰り返したが、会場にいたマスコミ記者は納得せず「プライバシーを盾にした隠蔽(いんぺい)では」と厳しく追及した。
では、そんな立派な報道機関が自社内で起きた問題について「プライバシー」を理由に説明を一切しなかったとしたら、世の中の企業はどう思うだろうか。
「人のことを攻撃する時はプライバシーを盾に隠蔽するなとか偉そうに言っているくせに、いざ叩かれる側になった途端にプライバシーを理由に何も答えられないなんてご都合主義がすぎるな」とあきれるのではないか。
そこに加えて、報道機関として致命的なのは、「旧ジャニーズ事務所と極めて密接な関係にあり、創業者や人気タレントにやりたい放題やらせてきた」という今、日本のテレビ局が一番突っ込まれたくない「不都合な真実」を闇に葬り去っているようにしか見えないところだ。
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