こうした姿勢は、やなせたかし記念館の運営組織の意思決定プロセスにも深く根ざしている。
「他の施設との違いは、『やなせたかしの記念館ならばどうすべきか』という視点を常に持っていることです。皆さんが抱いているやなせたかしのイメージや、アンパンマンのイメージを壊してはいけません。その意識は強くあります」
この考え方は、仙波さん個人にも大きな影響を与えている。
「私は県外のギャラリーからの転職で、この美術館にたどり着きました。アーティストは個性的な方が多いですが、本当にありがたいのは、やなせ館長が伝えているメッセージ、例えば、献身や愛、自己犠牲といったものに対して、共感できないことが1つもないことです」
これは来場者とのコミュニケーションにも役立っている。
「記念館にいらっしゃる方は本当に多様ですが、やなせたかしの作品が好きであるという共通点があります。私たちも直接お客さまと接する際、例えば、アンパンマンが好きだったり、やなせ館長の絵本が好きだったりということで通じ合えますし、単に美術館として作品を展示したり、作者のメッセージを伝えたりする以上の広がりが生まれます。お客さまとの距離は本当に近いですね。もちろん運営面などで、厳しいお声が届くこともあります。距離が近いため受け止めるのが辛いこともありますが、その一方で、好きなものを同じ立場で一緒に分かち合える楽しさがあるのが、他の美術館とは大きく違う点だと思います」
やなせたかし記念館は来年で開館30年だが、どういった存在であり続けたいと考えているのだろうか。
「これから先、記念館がもっと地域に愛され、誇りに感じてもらえるものになるとうれしいです。地元の方々が、自分たちの街にはこんな素敵な施設があるのだと認識し、やなせ館長をより身近に感じてくれることを願っています」
仙波さんの言葉には、単なる観光施設にとどまらず、地域の文化的な拠り所となることへの強い願いが込められていた。(前編を読む)
伏見学(ふしみ まなぶ)
フリーランス記者。1979年生まれ。神奈川県出身。専門テーマは「地方創生」「働き方/生き方」。慶應義塾大学環境情報学部卒業、同大学院政策・メディア研究科修了。ニュースサイト「ITmedia」を経て、社会課題解決メディア「Renews」の立ち上げに参画。
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