高知県香美市にある「やなせたかし記念館 アンパンマンミュージアム」(以下、やなせたかし記念館)は、開館から29年がたった今も進化を続けている。その理由は、名誉館長でもあったやなせたかし氏が開館当初から掲げていた理念にある。
「『現在進行形でいこう』とおっしゃっていました。決められたものを皆さんにお見せするのではなく、さまざまな声を聞きながら、常に進化していくミュージアムで良いと」
こう振り返るのは、やなせたかし記念アンパンマンミュージアム振興財団で事務局長を務める仙波美由記さんだ。美術館でありながらも権威的な姿勢をとらず、来場者の意見に積極的に耳を傾け、新しい取り組みを次々と導入する。これが同館の大きな特徴だ。
「やなせ館長が亡くなってからも、私たちはそれを強く意識しています。変化を恐れず、『こうしてほしい』『こういうものを見たい』という皆さまの声をできる限り取り入れた結果、マイナーチェンジを含め、この29年の間で当館の展示はかなり変わっています」
ハード面では、この29年間に授乳室を増設したり、エントランスのバルーンや立体ジオラマの増設、撮影スポットなどを新設したりした。作品に関してとりわけ興味深いのは、展示位置を定期的に変更している点である。
「子どもたちの目線で見ていただきたいので、比較的低めに作品をかけていますが、同時に、安全を最優先しなければいけません。低すぎると、ちょうど目の当たりに突起物があったり、額縁の角に当たってしまったりします。そのため、夏休みなどで幼い子どもたちの来場が増える時期には、あえて作品を高く展示することもあります」
一般的な美術館であれば「この絵はこの角度で見てほしい」という作品性を重視するところだが、やなせたかし記念館の姿勢は異なる。来場者に寄り添う姿勢こそが、同館の経営イズムなのだろう。
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