2024年夏、ハラカドでは、花王と東急不動産が連携し、館内全体を「涼」をテーマにした装飾や企画で盛り上げるイベント「ヒヤカド」が開催された。
各テナントが自主的に参加し、飲食店では辛いメニューに汗拭きシートをつけたり、美容室ではひんやりシャンプーを提供したりと、“涼”のおもてなしを展開したという。この試みは、企業が生活者と自然につながる場をつくることを目指したものであり、関根氏は「文化祭のような一体感だった」と振り返る。
代理店に依頼してイベントを開催すると、イベントスペースにしかお金が落ちないこともある。本当に落ちてもらいたいところにお金が落ちるためにテナント同士で協力して企画・制作を進めた。そうすることで、テナントや街のお店に直接お金が流れる仕組みを作ったのだ。そして今年、その活動を原宿の街へと広げ、より大きなスケールで展開したのが、「原宿−3℃はじめました。」である。
小杉湯原宿が挑むビジネスモデルは、商品プロモーションの戦略だけではない。後継者の事業継承の新しい形も提案する。本店の小杉湯は、家業として三代にわたり受け継がれてきた歴史を持つ。銭湯に限らず代々続く事業は、伝統や世襲を守るために、採算度外視で経営せざるを得ないこともある。そのために事業が立ち行かなくなり閉業に追い込まれることも多い。
古き良きものを守っていくためにはどうすればいいのか。その打開策として小杉湯では、本店と原宿店を分けて「家業」と「事業」を両立するビジネスモデルを採っている。
「家業は守るもの、事業は攻めるもの。その両方が必要だと思っています。本店の高円寺は日常の銭湯を守り、原宿店は企画で挑戦を背負う。それぞれの役割を分担することで銭湯の未来を切り拓いていきたいです」
本店と原宿店は社長・副社長を交代しながら運営するハイブリッド体制による新しい銭湯のビジネスモデルなのだ。
「目標は、銭湯があって当たり前だと思ってもらえる社会をつくることです。なくなってから寂しがるのではなく、残したいと思ってもらえる存在になりたいです」
関根氏が目指しているのは、ただの施設運営ではない。企業、地域、そして生活者を緩やかにつなぐ場としての銭湯、原宿という街の良さを取り戻すことだ。
「スマホを持っていることを忘れる場所を作ること。例えばWITH HARAJUKU(ウィズ 原宿)のベンチに座って友達とミストを浴びて『涼しいね』って話をしながら、気付いた時にはスマホで写真を撮っていなかった。ただ、そこに居るだけで思い出として残るような、自然と周囲と溶け込む空間を大切にしていきたいと思います」
小杉湯原宿、そして関根氏の思いが、ここ発信の街・原宿が起点となり、全国に「原宿−3℃はじめました。」の街づくりの輪が広がっていく。
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