1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックベンチャーにて証券会社の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、2022年4月に広告枠のマーケットプレイスを展開するカンバンクラウド株式会社を設立。CEOとしてビジネスモデル構築や財務等を手がける。Xはこちら
ゲオホールディングスは2026年10月1日付で、持株会社の社名を「セカンドリテイリング株式会社」へと変更する。
レンタルビデオ事業で急成長した同社だが、いまやその売上比率は1割ほどにとどまる。新たな主力事業への転換を、深く印象付ける狙いだ。
同社の現在の主力は「セカンドストリート」におけるリユース販売がメインとなっている。
ゲオHDの企業イメージを巡っては、かつての主力事業であったレンタル事業のイメージが根強く、実態との乖離(かいり)が広がっていた。新社名はこのギャップを埋め、事業の中核が循環型社会における二次流通に移行していることを打ち出す狙いがあるとみられる。
SNSなどでは、社名がユニクロを運営する「ファーストリテイリング」を想起させるとして「パクリでは?」との声も上がった。
しかし、実はファーストリテイリングのつづりは、”First”ではなく“Fast”である。これは同社の製造小売モデルのスピード感を示すものだ。一方でセカンドリテイリングは中古品を意味する「セカンドハンド」と小売を意味する「リテイリング」を掛け合わせた意味が込められている。
一見似通っている両社の社名だが、語源や業態、価値観などさまざまな点において異なるため、海外投資家からみれば全く別の社名に見えることだろう。
社名変更の根底には、明確な事業構造の変化がある。
2025年3月期の連結売上高は4276億円だった。創業期の主力だったレンタル事業はそのうちの1割にも満たない286億円まで縮小している。もはやレンタルビジネスで一世を風靡(ふうび)した「ゲオ」というブランドの印象は実態と乖離しており、企業イメージを刷新する必要性が高まっていた。
アパレルを中心とした「セカンドストリート」業態は、米国やマレーシアなど海外展開も進んでおり、2035年度までに売上高1兆円、グループ全体の店舗数5000店という野心的な長期目標を掲げている。
2026年3月期第1四半期(2025年4〜6月)の業績は、売上高が前年同期比4.3%増の1044億円と堅調に推移。営業利益は39億円(前年同期比8.5%減)、純利益は24億円(同31.3%減)と減益だったが、為替変動や高価格帯在庫の調整による一時的要因が影響した。
ゲオHDはIR資料の中で「リユースを軸とした企業文化を再構築し、社内のエンゲージメントを高める」ことも狙いの一つとして挙げており、ブランド戦略としての意味合いが強い。
社名変更によって、投資家との対話にも変化が生じる可能性がある。同様の事例に、ビプロジー(旧:日本ユニシス)がある。
同社は2022年に社名を変更し、IT企業から「課題解決型DX企業」への転換を掲げた。その後、株価は上昇基調となり、現在も上場来高値を連続で更新している。時価総額は社名変更前の3000億円台から6500億円まで倍増しており、投資家からの再評価が明確に進んだといえる。
リブランディングが戦略と整合し、業績やビジョンと結び付いたとき、市場は好意的に反応するのだ。
ゲオHDにとっての「セカンドリテイリング」という名称も同様に、企業価値の再認識を促す契機となり得る。現在、ゲオHDのPBRは0.7倍と会社の純資産よりも時価総額が低い状態が続いている。
フジHDが不祥事を契機に、「PBR1倍割れ」を根拠にファンドや個人投資家の見直し買いが入ったことは記憶に新しい。きっかけさえあれば、これまで放置されてきた機会が掘り起こされるケースもあるのだ。
近年では、新品至上主義は薄れつつあり、中古品を「安価な代替手段」と見なす風潮は後退している。むしろリユースは、環境配慮やスマートな選択を意味するスタイルとして若年層を中心に定着しつつある。持続可能な社会を支える重要なピースとして、中古市場への期待は着実に高まっている。
「セカンドリテイリング」という社名には、そうした社会変化を味方に付け、もう一度新たな価値を世の中に届けていく姿勢を明確化したものであるといえるだろう。再定義された企業像が市場にどう映るか。社名を変えたその先に、ゲオHDの次なる成長期が待っているかもしれない。
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