高齢者の働く場としてはどうだろうか。立ち仕事ばかりのファミリーレストランは高齢者向きではないと考える人もいるだろう。しかし、多くの人はそれを分かった上で応募するため、年齢によって採用基準を変えるというようなことはしていないという。加えて、「配膳ロボットやセルフレジ、テーブルターミナルの導入などのDXやオペレーションの単純化により誰もが働きやすい職場づくりを推進していることも、シニアの方が応募するハードルを下げているのでは」というのが下谷さんの見立てだ。
ちなみに、応募を考えるシニア層からの質問で一番多いのは「どんな方が働いているのか」。周りが若い人ばかりでは浮いてしまうのではないかと心配する人が多いようだ(※)。
※参照:労働政策研究・研修機構 かいらーくホールディングスの取り組み
確かに、他の従業員との年齢ギャップを感じたりすれば働きづらくなりそうだ。しかしその点は、店舗に備え付けのタブレットや自らのスマホですぐに閲覧できる動画マニュアルが助けになっているという。
「もちろんトレーナーから対面で直接トレーニングを受けることもあるのですが、その後何度も『あれ、どうでしたっけ?』と聞かなくても、自分で動画を見て『あ、そうだった』と復習できるんです。それがシニアの方にとってのストレス軽減につながっているのではないかと思っております」(下谷さん)
なお、動画マニュアルは入社直後に必要な初歩的な内容だけでなく、その後のステップアップに応じて必要な内容が網羅されている。トレーナー役の従業員が他の従業員に教えるためのポイントや、パート・アルバイトの各等級で必要とされる知識やスキルなどの説明動画もあるという。
すかいらーくグループの店舗を訪れると、どの店でも同じレベルのサービスを受けられることに気付く。これを「いつでも同じ味と接客を体験できて安心」と評価する人もいれば、「少し人間味に欠けて寂しい」と感じる人、「標準化によってリーズナブルな価格が実現されている」と理解する人もいるだろう。
だが今回の取材で明らかになったのは、この徹底的な標準化が単なるコスト削減や品質管理の手段にとどまらないということだ。これが、多様な人材が活躍できる土台として機能しているのだ。
力仕事や複雑なオペレーションが少ないことは、どんな人にも働きやすい職場の実現につながる。また、サービスの品質が維持しやすい状態は顧客からのクレームの低減、感謝を伝えられる機会の増加にもつながり、働き手のモチベーションを向上させることにもなるだろう。
補足すると、これは「パート・アルバイト従業員は何も考えずにマニュアルに従えば良い」という話ではない。その証拠に、オンラインで定期開催される研修「感じの良いサービス勉強会」には年間でのべ3万人ほどのパート・アルバイト従業員が参加し、より良いサービスについて意見や情報を交換しているという。全国の店舗で顧客に直に接する人たちのリアルな声を受け止め、さらなる改善に生かしているわけだ。
本部主導で誰もが働きやすい職場づくりを支援しつつ、顧客と働き手の多様で多量なリアルな声を聞いて改善を進める。これは、全国に2900店以上を展開するすかいらーくグループならではの優れた経営の在り方だと感じた。
参考記事:「年収1000万円店長」誕生へ すかいらーくの徹底した「店舗中心経営」が生み出す好循環
コクヨ、ベネッセコーポレーションで11年間勤務後、独立。2013年より組織に所属する個人の新しい働き方、暮らし方の取材を開始。『くらしと仕事』編集長(2016〜2018)。「Yahoo!ニュース エキスパート」オーサー。各種Webメディアで働き方、組織、イノベーションなどをテーマとした記事を執筆中。著書に『本気で社員を幸せにする会社』(2019年、日本実業出版社)。
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