このように、世界では1990年代から「自然観光で得た収益を財源に自然保護を行う」ATの試みを、国や自治体、民間が協力して進めてきた。
しかし、日本では残念ながらATという発想すらなかった。行政の財源は人口減少でどんどん縮むので、道路やガス管の補修でいっぱいいっぱいで、自然保護などに力を入れられない。クマなどの動物の生態を守るためのカネも人もいない。だから、観光客のゴミ投棄や安易な餌やり行為を防げない。
その結果、「人間は怖くない」と学習したクマは、人里に降りることが増え、遭遇した人間を襲う。これらの問題を突き詰めれば、開発や里山の崩壊によって荒廃する自然に対して、財源不足を理由に十分な対策を講じてこなかったことが原因だ。
どんなにきれい事を言っても、自然を管理するのはカネがかかる。そういう現実から目を背けて問題先送りを続けると、迷惑を被るのは「自然と最も密接に暮らす人々」である。それを象徴するのが、クマ被害がでたときに駆り出される猟友会の皆さんだ。彼らが命懸けで駆除にあたっても、日当1万円も払わない自治体もある。このような割に合わない仕事は敬遠され、ハンターの数は減少し、高齢化も進んでいる。
残念だが、これが「自然を守れ」という理想だけ叫んで、現実に向き合ってこなかった国の末路なのだ。
それは観光も同じだ。「外国人観光客は出ていけ!」という理想をいくら叫んだところで、今やこの国の経済は観光によって支えられているという現実もあるので、何の問題解決にもならない。
だからこそ「アドベンチャーツーリズム」という現実的な解決策が重要になる。
日本の自然を守るためにも、観光公害を解消するためにも、東京・大阪・京都にあふれている外国人観光客を、全国の自然豊かな地域へと誘導して、各地で産業化していく。これこそが人口も減って、財源も先細りしていく日本の「勝ち筋」ではないのか。
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。窪田順生のYouTube『地下メンタリーチャンネル』
近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受
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