日本ではあまり馴染みがないが、海外では政治家や企業が自分に有利な情報操作を行うことを「スピンコントロール」と呼ぶ。企業戦略には実はこの「スピン」という視点が欠かすことができない。
本連載では、私たちが普段何気なく接している経済情報、企業のプロモーション、PRにいったいどのような狙いがあり、緻密な戦略があるのかという「スピン」をひも解いていきたい。
東京や大阪などの大都市に行くと、どこを見ても外国人観光客だらけ。かといって、自然豊かなところへ行くと「クマに襲われた」という不穏なニュースばかり。「いつから日本ってこんなに過ごしにくくなったんだよ!」とイラついている人も多いのではないか。
ただ、こんなことを言ってしまうと、さらにイラっとさせてしまうかもしれないが、このような状況を引き起こしたのは「自業自得」の面もある。
1990年代に欧米を中心に世界的な広がりを見せ、今や70兆円を超える市場にまで成長したビジネス「AT」に真剣に取り組んでこなかった「ツケ」を払わせられているのだ。
「AT? 何か自動車に関係あるもの?」と首をかしげる人も多いだろうが、このビジネスは「AT車」(オートマチック車)やミュージシャンの「m.c.A・T」とは無関係だ。
「アドベンチャーツーリズム」の略である。
観光庁の資料によれば、ATとは「自然」「アクティビティ」「文化体験」の3要素のうち2つ以上で構成される旅行を指す。市街地をぐるぐる回って食事をしてショッピングをするような一般的な観光客に比べて消費額が約2倍になることから、1990年代以降に世界各国が力を入れて現在では市場規模が70兆円を超えるまでに成長している。
そう聞くと、「はいはい、自然の中を歩くツアーとかのことでしょ。キャンプやらアウトドアブームとかで今盛り上がってるじゃん」と思うかもしれない。しかし、それはまさしく「井の中の蛙」というやつだ。2年前、日本におけるATの現状について分析した記事を引用しよう。
日本は完全に乗り遅れた。国内市場は推計1兆円にとどまる。「そもそも試算できるだけの市場がまだできていない」。JTB総合研究所(東京・品川)の山下真輝主席研究員は指摘する。最大の原因は自然を活用する発想の欠如だ。重視されてきたのは、荒らされないための「保護」。自然公園法や自然環境保全法など複数の関係法令が保護を掲げる(日本経済新聞 2023年2月5日)
要するに、とにかく何でもかんでも手を付けずに放っておけばいいという「中途半端な自然保護政策」のしわ寄せで、「AT」の世界的潮流から30年ほどガッツリと遅れてしまっている。
そして、この「AT後進国」という問題が現在のオーバーツーリズムやクマ被害を招いている、といっても過言ではないのだ。
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