ドローンを巡る攻防 「中国DJI VS. 米アンドゥリル」主導権を握るのはどちらか世界を読み解くニュース・サロン(3/3 ページ)

» 2025年09月12日 07時00分 公開
[山田敏弘ITmedia]
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「戦時でも現地で生産できる」が鍵に

 アンドゥリルが他と一線を画していると筆者が感じる理由はもう一つある。同社の製造プラットフォームは、需要に応じてさまざまな場所に設置できるのだ。これは、防衛分野における製造戦略の新たな形となる。

 ここで鍵になるのは、台湾有事だ。中国は台湾統一を目指して、台湾を攻撃して占領する意思を隠さない。有事になって台湾が封鎖されれば、米国などからの武器は届かない。そこでアンドゥリルは「戦時でも現地でドローンを作り続けられるシステム」を開発しているという。

 先日、アンドゥリルの設立者であるパルマー・ラッキー氏が「実業之日本フォーラム」の取材に応じて、「現実として、台湾においては『戦時でも現地で作り続けられるシステム』を作らねばなりません。(中略)台湾でも小規模施設で低コストのドローンなどを継続生産できる体制が求められます」と語った。また、「私が作って渡す兵器だけでは足りません。ゆえに、ライセンス生産が鍵です」と述べている。

戦時におけるドローン製造戦略の新しい形とは(画像提供:ゲッティイメージズ)

 ラッキー氏は興味深い経歴の人物だ。ラッキー氏がアンドゥリルを立ち上げたのは2017年。それまでは、のちにFacebook(現Meta)に売却することになる、VR(仮想現実)ゴーグルの開発企業、Oculus VR(オキュラスVR)を率いた。

 買収後もFacebookでオキュラスの担当を続けていたが、2016年の米大統領選の際に、ドナルド・トランプ候補の支持団体に9000ドルを寄付したことが理由で解雇された。その後、アンドゥリルを立ち上げ、世界でも注目される革新的な企業に成長させた。

 Metaのマーク・ザッカーバーグCEOは、今でこそ、トランプ大統領の機嫌を取って良好な関係を演出しているが、当時は中国に色気を見せていた。第1次トランプ政権時にも、Facebook上の一方的な投稿削除やアカウント凍結が問題となっていた。加えて、米ブルームバーグによれば、中国の習近平国家主席に自分の子供の名付け親になってほしいと要請して断られたとも報じられている。

 実は日本でも、アンドゥリルは注目されている。すでに伊藤忠商事や住商エアロシステムなど日本の商社3社と了解覚書(MOU)を結んでいる。自衛隊などでの導入もうわさされるが、そうなれば中国などに対抗する台湾や日本の切り札になる可能性がある。そうしている間に、民間でもAIを使った自律型テクノロジーと、そのコンセプトの活用が増えていくかもしれない。

筆者プロフィール:

山田敏弘

 ジャーナリスト、研究者。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフェローを経てフリーに。

 国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』(文春新書)、『死体格差 異状死17万人の衝撃』(新潮社)、『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)、『世界のスパイから喰いモノにされる日本 MI6、CIAの厳秘インテリジェンス』(講談社+α新書)がある。

Twitter: @yamadajour、公式YouTube「SPYチャンネル


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