弘中: これまでスムーズに進んだように見えますが、苦労した点はありましたか。
楠: トップ層は自分の業務をAI化できたのですが、横展開では壁がありました。生成AIは一発で完璧なアウトプットを出せるわけではないため、フィードバックをして、ディレクションをして、いいアウトプットに仕上げるという作業が発生します。このディレクション能力にばらつきがあり、同じプロセスを共有しても、人によって再現できないんです。
そこで効果的だったのが、自社独自のAIプロダクトの開発でした。
“ワークフローAI”をつくることで、誰がやっても同品質のアウトプットを出せる状態に近づけました。作り方はシンプルで、生成AIを使いこなせるトップ社員の過去のプロンプトをそのままAIに学習させる。その後、本当にプロンプトが必要な箇所だけを抽出し、極力プロンプト不要で簡単に使える状態を目指しました。例えば、ほぼプロンプト不要で、企業名や決まったオリエン情報を入力するだけで、企画案の提案や資料作成を完了できるワークフローAIなどがあります。
弘中: 今後の活用方針について教えてください。
楠: 今期中に評価制度にAI活用を正式に組み込みます。効率化だけでなく、トップラインへの貢献も明確な評価軸にする方針です。
やることは一貫して、圧倒的な属人性を持つ人を増やし、その思考と文脈をAIに学習させ、組織知へ昇華させること。産業的には、広告代理店の付加価値の一部は属人的AIで置き換え可能になりつつあります。内製強化が差別化要因になる時代に、事業会社の内製力を極限まで高めるサービスを進めたいと考えています。
弘中: 採用基準にも変化はありますか。
楠: 採用選考の一環として行うワークサンプルにAI活用を組み込み、オフィスで2時間の実技と発表を行う形にしています。AIを使わないと解けない課題を設計し、AIを“仕組みに落とせる人”、つまりAI設計ができる人をコア人材として迎える狙いです。
求める人材は2種類です。
「属人性」とは、圧倒的な成果を出しているのに、なぜ出せるのかが言語化されていない状態を指します。それを嗅ぎ分け、AIとの対話で文脈を抽出するのです。
弘中: 最後に、これからAI活用を始めようとする企業へのメッセージをお願いします。
楠: 100人中90人は、まだ強い属人性を持っていないかもしれません。だからこそ、まずは「職人がAIを弟子にする」ことが組織や社会全体の底上げにつながります。秘伝を秘匿するのではなく、AIに移植して再現させることが重要です。
一方、属人性が弱い人はAIを日常的に使って平均点を底上げすべきです。大切なのは、自分が100点を出せる領域を150〜200点に伸ばすためにAIを活用することです。私自身も事業戦略をAIと対話しながら作る中で、その効果を実感しています。中途半端に「自分の仕事をAI化するだけ」では価値は出にくい。POD(独自性)×AIで競争力として変えていくことが肝要だと思います。
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