「いい人を採るために、AIでもなんでも使いたい」
求人募集を出しても候補者が集まらない。面接の評価に面接官ごとのばらつきがある。書類選考の基準や、面接後に社内で共有される評価コメントも、人事の業務に忙殺されて曖昧(あいまい)になっていく──そんな中、採用の現場では生成AIへの注目は高まっています。
慢性的な人材不足、変化の早い市場環境、働き方の多様化、そして採用担当者自身の業務負担の増加。いま多くの組織では、「どうやっていい人を採るか」以前に「どうやって採用活動そのものをまわすか」という課題に直面しています。
実際、求人のたたき台作成、面接メモの要約、候補者宛メールの下書きなど、生成AIはすでに採用実務のすぐそばまでやってきているはずです。
本連載において、第1回で生成AIが人事全体に与える可能性を広く見渡し、第2回では「データ・システム・文化」の3つの壁を整理しました。そして第3回となる今回からは、人事機能とAIの関係をより具体的に掘り下げ、その第一歩として「採用」 にフォーカスし、前後編でお届けします。前編では「効率化だけじゃない、採用の質を変えるAIの活用」を、後編では「AIで変わる採用の役割と未来展望」を解説していきます。
採用は、生成AIが最も入り込みやすく、成果を実感しやすい領域のひとつです。しかしその一方で、「何を、どこまでAIに任せるか」の見極めを誤れば、目指していた納得感のある採用が遠のくだけでなく、企業の信頼や評判を損なうリスクも生まれかねません。
生成AIは、採用の最強のパートナーとなるのか。それとも、判断を曇らせる「おせっかいな存在」になるのか。今回は採用における生成AIの「今」と「これから」を見つめ直します。
採用業務は、人事の中でも生成AIとの相性が非常に高い領域です。その理由は、大きく分けて2つあります。
1つ目は、業務の多くが定型化しやすいという点です。「人が考え、人が選ぶ」ことが本質にありながらも、求人の作成、書類スクリーニング、メール対応、面接記録の整理、候補者と面接官のスケジュール調整など、日々のタスクの中には繰り返しの処理が数多く含まれています。こうしたタスクでは、生成AIが得意とする情報の要約・再構成・自動生成と非常に親和性があります。
2つ目は、データが蓄積されており、KPIが設計しやすいという点です。候補者数、通過率、歩留まり、評価コメントの傾向など、採用活動には多くの数値・テキストデータが自然に蓄積されます。さらに、選考の合否や入社後の活躍といった「結果データ」も取得できれば、評価の振り返りが可能です。こうした構造は、生成AIによる分析や改善の土台となり、実行と検証のサイクルを回しやすくなります。
では実際に、採用のどのフェーズで生成AIを活用できるのでしょうか。ここでは生成AIの活用を、「今すぐ使える即効系」 と「少し背伸びが必要な戦略系」の2つに分けて捉えると、より具体的なイメージが湧くでしょう。
このように、採用プロセスのさまざまな場面で生成AIの活用イメージが浮かぶのではないでしょうか。まずは即効系で確実な成果を出しつつ、徐々に戦略系の活用へステップアップしていくのがよいでしょう。
では、こういった生成AIの機能を「どう組み込むか」「どう仕組みにするか」に焦点を当てて、考えていきます。
生成AIを人事に組み込むとき、最も分かりやすい成果は前セクションの「即効系」にあるような業務効率化です。しかし、仕組みとしてAIの組み込みを進めていくと、効率化だけにとどまらない変化が見えてきます。それは、選考の基準や評価の一貫性が改めて問われ、採用の質と公平性そのものを高めるきっかけになる、ということです。
採用のゴールは単に入社させることではなく、入社後に活躍できる人材を選び出すことです。そして、そのプロセスが社内のみならず社外に対しても納得感をもって説明できる状態を構築することです。生成AIを組み込んだ採用の仕組み化は、その本質に立ち返るきっかけになりえます。
仕組みとして生成AIを組み込むことで、採用に次のような変化を生み出す可能性があります。これらは採用領域で長らく存在していた課題に直結するものです。
このように、生成AIを仕組みとして導入することで、効率化の先にある採用の質と公平性の向上に直結することが分かると思います。AIは判断を肩代わりするものではなく、人の判断を支える補助線として活用することが、採用の進化につながります。その結果、採用のゴールである「入社後に活躍できる人材の発見」と「説明可能で納得感のある選考プロセス」に近づくことができます。
では、この視点を踏まえながら、生成AIをどう仕組みに落とし込み、現場で使える形にするかを考えていきます。
生成AIは「文章をつくる便利ツール」にとどまりません。採用の日々の業務フローに組み込み、仕組みとして機能させたとき、その真価を発揮します。
ここでは、そのために必要な3つの視点を紹介します。
生成AIは、人事担当者の目に触れないところで働く影のアシスタントとしても活躍します。例えば、面接の録音データを自動で文字起こしし、要点を抽出して社内チャットツールに共有する。あるいは、候補者への面接調整メールやお礼メールのドラフトを自動で生成する。こうした一連のタスクは、人がゼロから作るよりも圧倒的に早く、かつ抜け漏れも少なくなります。
AIを裏方に常駐させることで、オペレーションはAIに任せ、人事担当者は「人にしかできない判断や対話」に集中できる環境が整います。
採用において最も難しいのは、「なぜその判断に至ったか」を説明することです。AIを活用すれば、面接官のフィードバックやスクリーニングの結果を再整理し、候補者の評価理由を客観的な形で可視化できます。「この面接官は論理性を重視している」「この面接官は協調性を重視している」など、観点の違いを浮かび上がらせることも可能です。
このプロセスを通じて、属人的な"なんとなく"の判断から脱却し、一貫性と説明責任を伴った採用基準を構築することができます。
「パッションのある人が欲しい」「もっと主体性のある人が欲しい」「とにかく優秀な人が欲しい」――こうした抽象的な要望を、現場から採用担当者が受け取ることもあるでしょう。
生成AIは一定の基準もなくバラバラに書かれた面接コメントや、社内チャットツール上の議論などを整理し、「優秀な人」とはどんなスキル持つ人なのか・どんな行動を取る人なのか、といったことを具体的な形に落とし込むことができます。これを研修資料や採用基準のドキュメントに落とし込めば、面接に関わる人全員が共通の言葉で候補者を評価できるようになります。
つまり、AIは組織に埋もれている感覚や知識を言語化して標準化する役割として活躍します。
組織に所属する人が持つ暗黙知や判断の背景をAIが整理し、そこに人が意味づけを加える、という往復によって、採用を「再現性のあるプロセス」へと進化させていきます。
このように、生成AIを仕組みとして導入すれば、単なる効率化の道具ではなく、採用の透明性と納得感を高める基盤となります。
ただし、ここで立ち止まって考えなければならないのは、AIにどこまで任せるのか という問いです。便利さに惹かれる一方で、判断を丸ごとAIに渡してしまえば、バイアスの増幅やブラックボックス化、候補者体験の悪化といった落とし穴に直面します。
後編では、このリスクにどう向き合い、人事がどのように役割を進化させていくのかを見ていきます。
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