元球団社長が「地方の回転すし屋」に……なぜ? 銀座、国会議事堂に打って出た塩釜港の勝算地域経済の底力(1/7 ページ)

» 2025年10月03日 08時00分 公開
[伏見学ITmedia]

著者プロフィール

伏見学(ふしみ まなぶ)

フリーランス記者。1979年生まれ。神奈川県出身。専門テーマは「地方創生」「働き方/生き方」。慶應義塾大学環境情報学部卒業、同大学院政策・メディア研究科修了。ニュースサイト「ITmedia」を経て、社会課題解決メディア「Renews」の立ち上げに参画。


 「え、大間のマグロが日本一じゃないの?」

 「廻鮮寿司 塩釜港」を運営する塩釜港の立花陽三社長は、生マグロの水揚げ量が最も多い漁港が塩釜(宮城県塩釜市)だと聞かされたときこう驚きの声を上げたという。塩釜港は宮城県塩釜市に本店を構える、行列の絶えない人気回転すしチェーンだ。現在は東京の銀座や国会議事堂にも店舗を構え、都内でも着実に支持を集めている。

 立花社長はプロ野球団・東北楽天ゴールデンイーグルスの運営会社である楽天野球団の社長を約9年半務めた後、塩釜港の社長に就任。なぜこの事業に取り組んでいるのか、そして事業の展望について話を聞いた。

塩釜港の立花陽三社長(筆者撮影)

知られざる日本一のマグロ名産地

 本題に入る前に冒頭のエピソードだが、立花社長に限らず、日本一の生マグロの水揚げ量を誇るのは、青森県大間町だという認識の人は少なくないだろう。

 テレビなどで毎年正月に報じられる豊洲市場の初競りで、億を超える値段がつく大間のマグロ。その派手な映像が強く印象に残ることも一因だろうが、実際の水揚げ量では塩釜が圧倒的に勝っているのだ。

 水産庁が公表した2024年の「水産物流通調査」において、生鮮のクロマグロの水揚げ量は、塩釜が1769トンで、大間が193トンと、10倍近くの差がある。2位の境港(鳥取県境港市)は1071トンであることからも、いかに塩釜が生マグロの“本場”であるのかがよく分かる。

 大間の認知度がここまで高いのは、そのブランディング力に他ならない。

 「大間のマグロが有名なのは、一本釣りで初競りに出すという“お祭り”効果が大きい。ただ、漁場は一緒で、大間に帰るか、塩釜に卸すかの違い。大間の漁船も時々、塩釜にマグロを卸しています」と立花社長は説明する。

 また、静岡のマグロが日本一だと言われることもあるが、これはインド洋などで獲れた冷凍マグロを指す。

 「シンプルに言うと、マグロには生マグロと冷凍マグロがあります。味の決定的な差はマグロの鮮度。死んでから日が経っておらず、締め方が丁寧な方がおいしい」

 そうした意味で、塩釜は質の高い生マグロが日本一集まる漁港であるにもかかわらず、ほとんど知られていない現実を、立花社長は悔しがる。

 漁港に水揚げされた鮮魚を卸売市場から直接買い付ける買参権を持つ立花社長の塩釜港は、水揚げされたばかりのマグロの中から最良のものを選ぶことができる。「日本一マグロが揚がる漁港の近くに店があり、マグロを買う権利もあるため選び放題。他のすし屋に負けるわけがありません」と立花社長は強調する。

 同社の強みはマグロの鮮度や品質だけではなく、コスト面でも圧倒的な優位性がある。

 仮に塩釜で仕入れたマグロが1ブロック1万円とすると、それが東京の豊洲市場では約1万2000円、最終的に都内のすし屋では1万5000円ほどになる。仲介マージンなどが積み重なるためだ。

 「うちは1万円で仕入れられるため、他店よりも5000円安い。だから銀座でも勝負できる」

 これが立花社長の自信の源であり、地方のすし屋が東京の超一等地で勝負できる根拠だ。

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