それから約3年半、立花社長は塩釜港に何をもたらしたのか。さまざまな経営改革を行ったが、特に注目されるのが店舗拡大だ。
2022年10月に仙台店を、同年12月にはマリンゲート店(塩釜市)を次々とオープン。そして、2024年2月には超一等地である銀座に出店した。この大胆な決断の背景には、明確な戦略があった。
「田舎の回転ずし屋が銀座のど真ん中に店を出すのは、とんでもなく異次元。ビジネス業態もまるで違います。でも、それをあえてやりました。なぜなら、われわれができるということを皆さまに示すとともに、それだけおいしいすしであるという自信を、社員にも持ってほしかったからです」
すしという料理の特性も考慮した戦略だった。「20種類のスパイスを混ぜるような、複雑な料理ではない。非常にシンプルで、鮮度が重要。一番大事なのはネタで、口に入れた瞬間、誰でも良し悪しが分かる食べ物です。きっとお客さまは『銀座でいろいろ食べたけど、あそこのマグロがおいしかったよね』となる。それを狙っているのです」
銀座店は本店や仙台店とは異なり、カウンター席がメインの高級ずし店で、客単価は3万円程度。大勝負に打って出たが、競合ひしめく銀座では苦戦を強いられている。開業以来赤字が続き、ようやく数カ月に1度は単月黒字が出せるようになった段階だ。
「高価格帯の飲食店は本当に難しいです。2万〜3万円を払うようなお金持ちの方は他にも行く店がたくさんあり、付き合いのあるすし屋も多い。その中に入らないといけない。そして、たとえ入ったとしても来店は年に1〜2回。顧客が定着するには、3年から5年はかかるはずなので、その期間を耐えるだけの力がなければいけません」
銀座店のマイナス分をカバーしているのが本店だ。塩釜港は現在5店舗あり、年間売上高は約10億円で、本店が圧倒的。本店の強さがあったからこそ、無茶ができたのだという。
ただ、銀座への出店は新たな価値を生んだ。
「塩釜港のブランド力が確実に上がりました。銀座三越からコラボの声がかかり、国会議事堂にも店を出さないかという誘いがありました。銀座に店があるからこそ、いろいろな話が舞い込んできます。店舗ビジネスのブランディングは本当に重要です。銀座で勝負し、国会議事堂でも営業しているすし屋と、地方の回転ずし屋ではビジネスの広がりが全く違います」
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