2025年6月に民営化した商工組合中央金庫(以下、商工中金)が、生成AIを活用したロールプレイング研修システムを導入した。スマートフォンやPCで、いつでもどこでもAIアバター相手に営業練習ができる仕組みだ。
対象は外国為替業務。他メガバンクの事例を知ってからわずか半年でシステムを稼働させた。
2025年6月の民営化を機に、中小企業向け金融のインフラとしての地位確立を目指す商工中金。「あの商工中金がAI研修?!」と、驚いた読者も多いのではないか。
同社は今、営業担当者のスキル底上げに本腰を入れ始めている。
商工中金が今回AIを導入したのは外為業務の研修だ。外為業務とは為替取引や国際送金、外貨建て融資など、企業の貿易活動を支える業務を指す。
「外為業務は、経験店舗や担当先によって実践経験の差が大きく、人によって得意・不得手が分かれる分野」。国際部国際業務企画グループの山口裕之次長はこう説明する。
商工中金は全国の都道府県に支店を持つが、外為業務を必要とする顧客は貿易をしている企業や海外に子会社を持つ企業に限られ、大都市圏に集中する。営業担当者は5年程度で転勤するため、地方支店に配属された職員は外為業務の経験がないまま数年を過ごすことになる。
従来も集合研修はあったが、座学中心でアウトプットの機会が少なかった。ロールプレイングも実施していたが、代表者が前に出て演じる形式で、「人数が限られ、細かくフィードバックをあまりしてあげられない」(山口氏)。気恥ずかしさもあり、実践的な訓練にはなりにくかった。
融資業務は全国どの支店でも必ず経験するが、外為業務は違う。経験の差が営業力の差に直結し、顧客サービスの質にも影響する。商工中金はこの課題の解決を迫られていた。
AIロールプレイング研修の導入は驚くほど速かった。山口氏が他メガバンクでの導入事例を知ったのは2024年末頃。そこから7月末のリリースまで、わずか半年だった。
「ばっちり外為業務にはまるなと思って」。山口氏は即座に動き始めた。通常、金融機関で新システム導入といえば1年以上かかる。なぜこれほどスピーディーだったのか。
背景には、商工中金が外為業務に組織を挙げて注力していたという事情がある。2025年11月に義務化される国際送金の新規格「ISO20022」への対応を、商工中金は同年1月に完了。「多分メガバンクを除くと相当早い」と山口氏は言う。高コストを理由に外為業務から撤退する地方銀行が相次ぐ中、商工中金は逆にこれをチャンスと捉えた。
「全国に支店もあるし、お客さまのニーズにも応えられるインフラ、システム、人の体制が整っている」。外為業務強化は経営戦略の一つだった。
もう一つの要因は技術的な割り切りだ。このAIシステムは社内システムと連携しない設計で、クラウド上で完結する。「お客さまの重要情報が流れるリスクがない」ため、セキュリティ審査が比較的スムーズに進んだ。
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