銀行業態では「生成AIの登場で、窓口業務がなくなるのでは?」という意見もある。
上ノ山CDOは「(1)窓口業務に必要な人数が減るかもしれない、(2)窓口業務が進化するのかもしれない──の両軸で考える必要がある」と指摘する。
「AIコンシェルジュのようなサービスが広がっても、ヒトがいいというニーズは必ず残ると考えています。そのような中、今までの応対レベルを維持するだけでよいのか、“おもてなし”のような、人間ならではの価値をどう提供していくかは、まだ議論の最中です」
一方で、生成AIに代替される業務もある。その際企業として、AIによって仕事の一部を取って代わられた従業員と対話し、今後のキャリアについて話し合っていくべきだと上ノ山CDOは続ける。
日本では、人格と業務を混合して考える傾向があると指摘。業務効率化という観点ではポジティブな意見が多いが、自分の仕事が代替されること=人格否定という認識を生んでしまうことが多い。上ノ山CDOは「(生成AI活用に対する)受け止め方がぶつ切りになってしまっている」とし、人格と業務を分けて考えるべきだと話す。
「『AIによって仕事が奪われる』というのは実際ありうることなので、人々はAIに恐怖を感じたり、『あなたじゃなくてもいいよね』と言われているような気持ちになってしまったりするものです。企業は、『あなたにしかできない仕事があるよね』と、視点を切り替えていかなければいけません。社員一人一人に自己効力感を高めてもらい、マインドを変えてもらう必要がある──AIを考えることと人を考えることは、表裏一体なのです」
重要なのは社員のマインドセットを変えること。従業員の気持ちが追い付いていない状況では、生成AI活用でビジネスを変えることはできないという考えだ。
「自分だからできること、自分にしかない価値──それは個性を生かせるおもてなしのようなものだと思います。自分らしさを追求した先にどのような業務があるのか、従業員一人一人と考えていく。それが、今当社が進めていることです」
今後同社は、2つの視点で人材育成を強化していく。「ベーシック人材による現場業務での生成AI活用の促進」と「ハイレベルな専門人材の育成・獲得」だ。
1つ目について、先述した研修などの取り組みにより、一般社員の多くが基礎知識を身に付けた状態だ。今後は、各自が現場業務で生成AIの知識を生かしていくフェーズだという。
「生成AIをたくさん使う会社になりたいわけではありません。生成AIは道具でしかないので、この道具を活用し、ビジネスをどのように変革させていけるのか、より多くの従業員に検討してほしいです」
2つ目は先端的に物事を開発していく「ビジネスアナリスト」の獲得だ。
昨今、AI人材、デジタル人材の採用は難易度を増している。同社も人材獲得には苦労していると話し、「日本人が今後減少する中で、あの手この手で何とか対応していくしかない」と語る。
同社が現在注力するのが、グループ企業全体での人材配置の最適化だ。みずほグループは人事制度を共通化しており、グループ企業間の人材流動性を高められるのが大きな強みとなっている。上ノ山CDOも「これはほかの金融機関にはない強みになる」と語る。
現在、みずほリサーチ&テクノロジーズの統合を検討しており、同社で活躍するエンジニアをリスキリングしていくことで、AI人材を育成する可能性もあると話した。
「AI時代にビジネスがどう変わっていくのかという部分に合わせ、グループ全体で人材の適切な配置を検討していく」
AI活用と人的資本経営を両軸で検討するみずほフィナンシャルグループ。同社の取り組みは多くの企業にとって、従業員の不安感を拭い、エンゲージメントを高めるヒントになりそうだ。
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