生成AI時代、日本企業の勝ち筋は? 平デジタル大臣、松尾教授、PKSHA上野山社長に聞く

» 2025年10月15日 06時00分 公開
[渡辺まりかITmedia]

 生成AIの急速な進歩により、企業はその経営方法を根本から変革する必要に迫られている。

 では、国はそれを後押しするためにどのような政策を取っているだろうか。8月21日に開催されたイベント「PKSHA AI Summit 2025 TOKYO」で、平将明デジタル大臣、東京大学大学院工学系研究科 松尾豊教授(技術経営戦略学専攻/人工物工学研究センター)、PKSHA Technology 代表取締役 上野山勝也氏が対談。AIエージェントが経営の中核を担う時代に日本企業が競争力を高め、持続的に成長を遂げるための道筋を語った。

 この記事は、8月21日に開催された「PKSHA AI Summit 2025」内のSpecial Sessionの内容を基に紹介する。

「日本は独特」 生成AI活用、世界と比較した日本の立ち位置

デジタル大臣 平将明氏

 日本における生成AIの現在地について、政府は現在サイバーセキュリティー強化に向けた専門会議の立ち上げ、データの利活用に関する法律の構築、データセンターへの電力供給を強化するための方針策定など、包括的な取り組みを進めている。

 PKSHA Technologyの上野山代表は、過去のダボス会議への参加などの経験から「AIに対する捉え方が、海外の国々と日本では異なる」と述べた。

 「例えばUAEやサウジアラビアでは、オイルに変わる新産業としてAIを位置付けている。アフリカのある国では、AIによって政府のガバナンスを強化し、クリーンな政治を実現しようとアプローチする動きがある。日本は人材不足解消をAIでどのように解決するか、AI大国の米中の間で何をすれば良いか、といった議論が行われている印象だ」(PKSHA Technology 上野山代表)

 平大臣も、海外ではAIを活用したロボットに対して警戒感や危機感を持つことも多いが、日本では友好的なロボットの活躍物語が広く知られていることもあり、AIをフレンドリーなものとみなしている傾向があると指摘。「(そういう点で)米中の“二強時代”の中で、日本は独特のポジションが取れると考えられる」と補足した。

 松尾教授は、「米中がAIのツートップとなっており、大きな利益を挙げている。それ以外の国の中で、立ち位置や政策も含め、日本の状況は良い。今後の活用を加速的に進められれば、AIエコシステムの構築や他の産業への展開など、より良い効果を見込める。それをベースにアジアやアフリカ諸国などと連携することで、第三極を形成できる」と語る。

 「実は、日本はデジタルを使えてこなかった国でもある。さらに、人材不足という課題も抱えているため、AI活用によって巻き返せるチャンスが最大であるのは日本だろう。日本がリーダーシップを取れば、他国を巻き込んで大きなグループを形成することができるのではないか」(松尾教授)

自国で活躍するAI人材の育成が多くの国で課題に 松尾研の取り組みは?

 松尾氏率いる東京大学の研究室「松尾・岩澤研究室」では、政府と協力してアフリカでAI人材を3万人育成する計画を立てている。

 これまでに松尾研は、38社のスタートアップ企業を輩出してきた(2025年10月時点)。

東京大学大学院工学系研究科 技術経営戦略学専攻/人工物工学研究センター 教授 松尾豊氏

 PKSHA Technologyもその1つだが、松尾教授は「これまで優秀な人材が米国などビッグテック企業へ流出してしまっていた。しかしここへ来て国内で活躍する人が生まれ、自国の経済圏を大きくするのに役立ってくれている」と述べた。

 「ASEAN諸国でも同様の悩みを抱えている。人材を育成し、自国の企業に根付かせ、自国の経済を大きくしたいと各国が考えているので、それを一緒にやっていくことで、相乗効果の生まれる可能性がある」(松尾教授)

AI時代、日本企業の勝ち筋は?

 東京商工リサーチの「生成AIによるアンケート」調査によれば、6645社のうち生成AIの活用を推進している企業はわずか25.2%で、半数の50.9%は方針を決めていないという。

 平大臣はこの調査が定性的なデータを扱っている点に着目。実際は取り組んでいても「まだ成果が出ていない」などと謙虚に回答する経営者が多いため、順位が下がっている可能性もあると指摘した。

 また、松尾教授も「革新的な技術を取り入れるのにためらうのは、日本ではよくあることだが、実はAIに関してはこれまでより取り入れるスピードが速い」と考えている。とはいえ、次のような懸念と解決策についても述べた。

 「どこにAIを活用しようかという議論がなされているが、AIにできることは今後どんどん増えていき、ホワイトカラーやブルーカラー、物理やデジタルといった職種や作業の垣根を超えてくる時代がやってくる。業務プロセスも組織もサプライチェーンも全て連続的に変化する。早く取り入れればそれだけ競争力が高まる。変化しなければいけないと心に定め、チェンジマネジメントしていかねばならない」(松尾教授)

PKSHA Technology 代表取締役 上野山勝也氏

 「AIによる全自動化の前に、企業の競争優位性やコアがどこにあるかを再認識する必要がある」と上野山氏は補足する。「製造業にはバックオフィスやものづくり、販売といった業務があるが、そのコアとなるのはものづくりの部分だろう。金融機関であれば与信業務がコアとなる。各企業でコアとなる部分を、AIによってスピードアップするなどして拡張し、競争の原理が変わるだろう」と解説した。

 「人材不足を補う、省力化を図るといった足りない部分を強化することだけではなく、AIのポジティブな使い方を見つけることで、企業の競争力は上がっていくと考えている」(上野山氏)

 平大臣も「ものづくりや観光体験、食体験など、日本企業の持つコアな価値、アナログ的価値をデジタルで最大化することが日本の勝ち筋につながる」と述べた。

 最後に3人は次のような言葉で締めくくった。

 「政府ではAIを含めたデジタル活用においてさまざまな政策を行っている。ぜひ知ってもらい、活用してもらい、日本から世界を席巻するサービスを作ってもらいたい」(平大臣)

 「謙虚で他と比較しがちな国民性を持っている国ではあるが、AIに関してはそこそこうまくいっているという自信を持ってもらいたい。そしてこれからの変化に対応できる能力を個人でも組織でも身につけてもらいたい」(松尾教授)

 「AIに対して、不安を感じるような雰囲気が出ているが、上手に使えばポジティブなものを生み出せる。人と共進化していける。これからもAIのポジティブな使い方、共進化について議論していければうれしい」(上野山氏)

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