近年、注目される機会が増えた「人的資本経営」というキーワード。しかし、まだまだ実践フェーズに到達している企業は多くない。そんな中、先進的な取り組みを実施している企業へのインタビューを通して、人的資本経営の本質に迫る。インタビュアーは人事業務や法制度改正などの研究を行う、Works Human Intelligence総研リサーチ、奈良和正氏。
「ダイナミックにチャレンジを続ける」という理念のもと、人的資本経営を軸に、社員一人一人の挑戦を後押しする企業文化の醸成に取り組んでいるダイドーグループホールディングス。
かつては変化への抵抗感も強く、営業現場を中心に“過去の成功体験”が変革の壁となっていた。しかし、節目の年に始まった社内企画をきっかけに、挑戦を可視化し、行動変容の連鎖が生まれたという。
変化を一過性のものとせず、制度と風土の両輪で取り組みを継続してきたその背景には、どんな仕組みと思いがあったのか。代表取締役社長の高松富也氏(※「高」は「はしごだか」)に話を聞いた。聞き手は、人事業務や法制度改正を研究するWorks Human Intelligence総研リサーチの奈良和正氏。
ダイドーの変革の裏側と、人的資本経営の真髄に迫る。
奈良: 2014年に代表取締役社長に就任されて以来、「ダイナミックにチャレンジを続ける」という理念のもと、ユニークな自販機の導入や営業スタイルの改革など、さまざまな取り組みを進めてこられましたよね。そうした「チャレンジする風土」を根付かせるために、特に力を入れてきたことについて教えてください。
高松: やはり一番大きな取り組みは、グループ理念の刷新とその浸透ですね。私が社長に就任したタイミングで、それまで大切にしてきた「共存共栄」の精神に加え、「ダイナミックにチャレンジを続ける」というメッセージを新たに打ち出しました。この新たな理念をしっかりと社内に根付かせるために、社内では理念浸透活動と称し、全国の拠点を回って現場の従業員と直接対話を重ねてきました。
奈良: 理念の刷新とともに、チャレンジする文化を組織に根付かせていくには、実際の制度設計や現場への働きかけも重要になってきますよね。具体的に始められた施策やお取り組みについてもお伺いできますか?
高松: 「40周年を機に何かやろう」という話になって、「みんなの4◎(よんまる)チャレンジ」という社内イベント的な取り組みを実施しました。社員から幅広く改善提案や新しい40のチャレンジを募って、実際にやってみようという企画だったのですが、これが好評で。
もともとは40周年の記念的な意味合いが強かったんですが、結果的に、当社における“チャレンジする文化”づくりの原点のような存在になりました。
その流れを受けて、2017年度からは「DyDo チャレンジアワード」という表彰制度をスタートしています。従業員の挑戦を後押しし、チャレンジする風土を根付かせていくことを目的に、「チャレンジ部門」と「アイデア部門」の2つがあります。
チャレンジ部門では、実際にこの1年間で取り組まれたチャレンジの中から、企業価値の向上に貢献した事例を表彰しています。アイデア部門は「これからやってみたい」というアイデアを募り、選ばれたものは翌年度以降に会社がサポートして実現に向けて取り組む仕組みです。社内投票も取り入れ、社員同士でお互いの挑戦に関心を持つきっかけにもなっています。
奈良: 節目のイベントから始まった取り組みが、いまや制度として定着しているのですね。最初からスムーズに社内に浸透したのでしょうか?
高松: 正直にいうと、最初のころは数こそ集まるものの「内容はもう一歩」という提案も多かったです。でも「こういう提案をしてもいいんだ」という前例ができたことで、徐々に質の高いチャレンジが増えてきた実感がありますね。
最初は社員が各自のアイデアを形にするのは難しかったのですが、提案の中から「これは実現できそうだ」と判断したものを選び、その提案者本人に実行まで関わってもらう仕組みを繰り返していきました。
最初はサポートが必要で、試行錯誤も多かったのですが、実際に自分のアイデアが形になって周囲から評価される経験を重ねることで、提案の質が徐々に上がっていったんです。さらに、成功事例が増えることで、周りの社員も「自分もチャレンジしてみよう」と参加意欲が高まり、提案者の数も年々増えていきました。
こうして、一つ一つの小さな成功体験が組織全体に広がり、質の高いチャレンジが自然と根付いていくという好循環が生まれたんです。
ただ、一方で新しい取り組みを組織全体に浸透させるには別の難しさもありました。過去の成功体験が逆に変革の壁となるケースが多いなと感じることもありました。
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