IHIが、営業利益の8割強を占める航空・宇宙・防衛事業で、次の一手を繰り出した――。天候や昼夜を問わず24時間365日監視が可能な「地球観測衛星コンステレーション」を国内で構築・運用することで、安全保障や公共、商業利用を目的とする新事業を確立する狙いだ。
同社は、地球観測衛星コンステレーションを構築するため、合成開口レーダー(SAR)衛星コンステレーションを所有するフィンランドのICEYE(アイサイ)と、同社製のSAR衛星の調達契約を結んだ。投資額の詳細は非公表であるものの、数百億円規模とみられる。
両社は日本国内でSAR衛星コンステレーションを共同で運用し、衛星製造拠点の国内整備に向けた協力も進める。ICEYE共同創設者兼CEOのラファル・モドジェフスキ氏はアイティメディアの取材に対し「ICEYEの衛星は2024年のウクライナの件でも実際に使っていて、絶えず改善を続けている点で強みがあります」と話した。
「防衛や保安、やはり自国を守るのであれば、新規に打ち上げて使えるかどうか分からないものよりも、やはり現実的に使えるものが良いのではないかと思います。ICEYEの衛星は、すでに2024年のウクライナの件でも実際に使っています。そこでさまざまな情報をもらいながら何度も改善をし続けてきました。従って(他社に比べて)強みがあり、現実的に成功しているテクノロジーとして使えると思います」
モドジェフスキ氏にICEYEの強みを聞くと、こう答えた。組織としても強みがあるようだ。
「会社を設立した際、スタートの時点から、私たちは衛星をプログラムとして作るのではなくて、プロダクトとして作ろうと考えていました。プログラムとプロダクトの違いとは、米AppleのiPhoneのようなものです。つまり、お客さんがお願いするまで(作るのを)待っているのではなく、私たちが『(顧客は)こういうものが欲しいんじゃないか』と予測して、事前に企画する企画力が大きな違いだと思います」
「例えば2018年、衛星のジェネレーション1の時期でいうと、私たちは18〜24カ月ごとに最新版の新しい衛星を考えて打ち上げてきました。現在はジェネレーション4まで進んでいます。毎回、私たちは機能の改善を続けているのです」
SAR衛星は、マイクロ波という電波を地上に照射し、跳ね返りの電磁波を分析することによって、昼夜や天候に影響されず地球の事象を観測できるもの。防災・安全保障・環境監視など多岐にわたる分野で活用されている。
IHIは、今回4基の衛星を取得し、2026年度から衛星データの取得が可能となる予定だ。取得した高精細なSAR衛星データを活用し、国内外の需要発掘とユースケース創出を図る。SAR衛星データの需要を見極めた上で、2029年度までに最大24基体制のコンステレーション構築を目指す。国内での衛星組み立て・試験も計画していて、ICEYEと共に準備を進めているという。
このコンステレーションではSAR衛星に加え、光学センサー、次世代自動船舶識別システムVDES、無線周波数(RF)収集、赤外線(IR)、ハイパースペクトルセンサーなど複数の衛星を追加する構想だ。
陸上や海上での作戦活動に必要な目標の検出や追跡能力を提供することによって、日本の国家安全保障と経済安全保障に貢献する。衛星データや撮像キャパシティの相互共有を通じて、国際連携強化のための衛星情報共有ネットワークの基盤を確立する構えだ。
IHIの井手博社長は「当社は、急速に変化する世界の中で、安全・安心な社会の実現に貢献することを理念としています。当社の航空・宇宙・防衛事業は成長事業であり、 2024年度の実績では営業利益の8割強を占める大きな事業です。今回の取り組みは、IHIの未来を見据えた投資であり、ICEYEと連携しながら、最先端の衛星による新たな価値創造に挑戦します」と話した。
「地球観測衛星コンステレーションの構築を通じて、幅広い分野での課題解決を目指していきます。IHIグループの、ものづくり力を結集し、未来の社会に必要不可欠となるインフラの構築をリードしていきます」(井手社長)
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