アサヒやアスクル以外にも、ランサムウェア攻撃を受けながら信頼を保った企業はある。以下に、過去1年以内に起きた国内の好事例を紹介したい。
KADOKAWAは、動画配信サービス「ニコニコ動画」などを含むネットワーク全体が攻撃を受け、従業員・取引先・教育関連を含む25万人以上の個人情報が流出した。
同社は被害確認の数日後には「社内システムがランサムウェア攻撃を受けた」と公表し、公式サイトで影響範囲を明確にした。特に「ニコニコユーザーのアカウントやクレジットカード情報には影響なし」と早い段階で説明したことが、ユーザーの動揺を抑えた。また、復旧の進捗を月単位で発信し、社員教育やフィッシング対策の強化を積極的に発信した。
カシオは海外経由の不正アクセスを受け、業務データや個人情報が流出した。
初報で「顧客のクレジットカード情報への影響は確認されていない」と明確にし、続報では原因や再発防止策をIR資料の中で説明。社員教育やシステム強化の取り組みを同時に発表した。商品発売の遅延という直接的な影響はあったが、株主総会で復旧計画を開示したことが、逆に「誠実に向き合う企業」という印象を残した。
英国のサイバーセキュリティ企業、ソフォス(Sophos)が実施した「ランサムウェア被害後の復旧と広報対応」を分析した調査によれば、97%の企業が3カ月以内にシステムを復旧させているにもかかわらず、信頼回復の速度には大きな差があるという。
その差を分けたのが、「事実ベースのストーリーテリング」と呼ぶ対応――つまり、被害の経緯と回復の道筋を“具体的な行動”として説明する力だった。単に「調査中」と言うだけでなく、「どのシステムを復旧し、次に何をするのか」を発信した企業ほど、株価やブランドイメージの回復が早かったという。結局のところ、攻撃そのものではなく、「どのように語ったか」が信頼を左右する。
システムの復旧スピードと同じように、コミュニケーションのスピードも企業の生命線なのだ。ランサムウェア対応で信頼を保った企業に共通しているのは、「正確さ」と「誠実さ」を両立させる仕組みを、平時から準備していたことだ。調査が終わるのを待つのではなく、「分かっていること」「これから確認すること」「次に発信する時期」を明確に伝える。その繰り返しが、社会との信頼関係を途切れさせない。
もし明日、自社でサイバー攻撃が起きたら――誰が、どの順番で、何を伝えるか。その設計図を今から描いておくことが、最大のリスクヘッジになる。
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