フジテレビの女子アナ“ステマ”疑惑が突き付ける「※ツイートは個人の見解です。」のウソ会社と“個人SNS”の関係(1/6 ページ)

» 2021年06月12日 11時59分 公開
[霜田明寛ITmedia]

 『週刊文春』4月22日号で発覚した、8人のフジテレビ女性アナウンサーの“ステマ”疑惑。6月になり該当する女性アナウンサーと、“仲介”したとされる男性アナウンサーは自身のInstagramで謝罪した。だが、それぞれ「報道された件」に関して「不快な思いをさせてしまい申し訳ありませんでした」という、具体的に何が報道され、何が悪かったのかを明示しない、不明瞭な謝罪となった。

 9人のアナウンサーはそれぞれ、自身の出演している番組も毎日のように放送されている。だが6月12日時点で、番組などを通じた謝罪はない。5月末にフジテレビは「社員就業規則に抵触する行為が認められた」と発表したものの、そもそも社内のルールに違反しているだけなら、公に謝罪する必要はないはずだ。

 皆似通った文章での謝罪だが、「不快な思いをさせたからお詫びする」という文言は、政治家のよく使う定型句で、不快な思いを抱いた視聴者のほうがまずいといった責任転嫁の印象すら与える。

 そもそも何が問題だったのか。そして、フジテレビ以外の企業にもそのような問題が発生する芽はないのか、考えてみたい。

フジテレビだけの問題なのか?(以下、写真提供:ゲッティイメージズ)

なぜキー局の中でフジテレビだけ問題が起きたのか

 女優やタレント、インスタグラマーと呼ばれるネット上の有名人が、美容室などのSNS投稿に顔や名前を掲載されている――それだけならよく見る光景かもしれない。ただ、今回の場合、彼女たちがキー局のアナウンサーという、有名人でありながら、1会社員――もっと言ってしまえば、総務省から公共の電波を割り当てられた放送局の局員であることが、問題に大きく作用してくる。

 特に、うち一人はフジテレビの夜のニュース番組のメインキャスターでもある。

 報道と広告。この2つは、距離をおくべきものだ。それゆえ、ニュース番組のキャスターは特定スポンサーのCM出演などを控えるのが基本である。報道番組内での発言が、自分に金銭を支払っている特定の組織への利益誘導になってはいけないからだ。

 そんな中、このキャスターは番組内で“主観が暴走する”傾向も指摘されている。昨年、米国で起きた銃撃事件についてコメントしたことに対し、「差別を助長する発言」だと揶揄(やゆ)する声も一部であがっていた。

 報道番組に携わるキャスターが、美容室とはいえ特定の企業の広告に加担し、その理由が「自分が無料でサービスを受けるため」だったというのは、放送人としての自覚をあらためて問うべき事態だ。ニュース番組ではある種の“主張”をしていたにもかかわらず、日常の個人的欲望が報道に携わる者としての自覚に勝ったと解釈されても仕方がない。

 これは、このキャスター個人だけの問題ではない。2011年入社から20年入社で、現在フジテレビに在籍する計20人の女性アナウンサーのうち、4割にあたる計8人もの女性アナウンサーが該当する行為をしていた。その上、彼女たちを合コンに斡旋(あっせん)していた男性アナウンサーが美容室との“仲介人”だったというのだ。誰も止める者がいなかったから、ここまで放置されたであろうことを考えると「自分たちは得をしてもいい人間だ」という個人的な自覚と、それを止められない風土が同社にはあり、彼女たちのそういった行動を常習化させたのだろう。

 同じように人気女性アナウンサーも抱える他局では問題が起きていないことを考えると、フジテレビのアナウンサーたちが、総務省から有限の電波を割り当てられた放送局から給料をもらっている“公共”の人間としての自覚と、タレントのように扱われる個人としての自覚との線引きができない集団であることが透けて見えてくる。

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