筆者は9月、旧ソ連の国であるモルドバにいた。モルドバはウクライナの南部に位置する国で、政治的にも親欧州勢力と親ロシア勢力がぶつかり合っている。9月28日に総選挙が行われたため、両勢力がぶつかり合う選挙戦を取材するために、モルドバの各地を訪問した。
モルドバは、選挙前から親欧州勢が政権を確保し、今回の選挙でも欧州寄りの政権が勝利した。一方、選挙戦は、SNSによる影響工作や現金での買収工作などが繰り広げられた。必要な工作費用は、ロシアなどにいる親ロシア勢力からカネが注ぎ込まれたのだが、そこで使われたのがステーブルコインだったと指摘されている。
親ロシア勢力には、現金を使って有権者を買収してきた歴史がある。対する政権側も、資金の流入を禁止して摘発を強化してきた。そのため、親ロシア勢力を率いてきたモルドバのオリガルヒ(新興財閥)で、犯罪容疑でロシアに亡命している政治家が、ロシアのルーブルとペッグ(固定)されたステーブルコイン「A7A5」をキルギスで発行。選挙介入の資金として使った。
実は、このようにステーブルコインが不正に使われるのは珍しくない。それどころか、ブロックチェーン分析企業Chainalysis(チェイナリシス)の「2025年暗号資産犯罪レポート」によれば、不正行為に関連する暗号資産の全取引量のうち、63%をステーブルコインが占めている。犯罪者らが使いやすい通貨でもあるということだ。
この傾向は2022年に始まっている。同年以降、ステーブルコインはこの種の活動で最も多く使われる暗号資産になった。ステーブルコインの利用が始まった日本も、世界的なステーブルコインの不正には注意を払う必要があるだろう。
暗号資産に詳しいある投資家は「例えば、A7A5の表で確認できるブロックチェーン上では、流通や取引は限定的に見える。ところが、発行残高(時価総額)が短期間で急拡大したり、TRONなど別の関連暗号資産に大きな残高が積み上がっていたりと、つじつまの合わない現象が観測される。オンチェーン(公開台帳)の動きは乏しいが、オフチェーン(取引所など内部での動き)では何かが起きていると考えられる。この辺りの動きは見えにくい現実がある」と語る。
アサヒに襲ったサイバー攻撃 ランサムウェア被害と身代金の現実
BYDの“軽”が日本に上陸 エコカー補助金の陰に潜む“監視リスク”
日本発の「夢の電池」はどこへ? 日本の技術がどんどん流出する理由
トランプ新政権で仮想通貨はどうなる? いきなり「推進」に舵を切った理由
Googleも「声」にだまされた 25億人分が流出、“電話詐欺型”サイバー攻撃の実態Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング