ではニデックの「事件」も「買い」なのか?
ニデックの株が買い戻されている最大の理由は、彼らが「過去の会計(ストック)の問題」と「未来の事業価値(フロー)の創出」を明確に分離して評価している点にあるといえる。
不祥事によって会計上の信頼は低下した。だが、ニデックにおける中国子会社の不適切会計額は2億円、イタリア子会社については、貿易取引上の手続きに関する問題だった。
オリンパスが1000億円規模にものぼる粉飾決算に手を染めたにもかかわらず、同社は上場廃止を回避し、今や株価も史上最高値圏にまで復活した。そんな先行例に鑑みると、それよりも軽い事例のニデックが簡単に上場廃止になるはずがないと考えることも理解できる。
ここでニデックの株価指標を見ると、予想PERは12.36倍、PBRは1.38倍の水準となっている。これは三菱電機の予想PER24.62倍、PBR2.18倍と比較しておよそ半分程度の評価がなされていることを意味する。しかし、営業利益率やROEはニデックの方が2割程度高い。
ニデックに買い向かう市場参加者の仮説としては、フジHDの事例のようにニデックの利益率に裏打ちされた“稼ぐ力”という中核的価値と株式の評価にねじれがあり、それが是正されると見ているからだといえる。
では、なぜこの「事件」は起きたのか。その根本原因は、創業者・永守重信氏の強力なリーダーシップ、すなわち「属人的経営」の功罪に起因しているとみられる。
創業期のニデックにおいて、永守氏の「即断即決」「コスト削減の徹底」といった属人的な経営は、企業を世界的な存在に押し上げる圧倒的な推進力となった。これは紛れもない「功」である。
しかし、企業の規模が拡大し、グローバル化・複雑化するにつれ、この属人性は「罪」へと転化する。最大の課題は「後継者不足」だ。永守氏のカリスマ性と経営手腕は、裏を返せば、彼自身が納得するレベルの後継者を育てることを極めて困難にした。関潤氏をはじめとした、外部から招へいした後継者候補が短期間で去る事態も相次ぎ、結果として永守氏への権力集中が再び強まることとなった。
強力すぎる創業者に対し、他の経営幹部が異を唱えられないというひずみは経営学上では「プリンシパル=エージェント問題」と呼ばれる。この問題が強い企業には創業者の意向を絶対視する風潮が生まれ、それを忠実に実行する「イエスマン」が重用されやすい組織風土が醸成されがちになるというわけだ。
今回の不適切会計、特に経営陣の関与または認識のもとで資産評価減の時期を恣意的に検討していたという疑義は、まさにこの組織風土の表れではないか。内部牽制やコンプライアンス部門が、創業者の意向を前に機能不全に陥っていた可能性は高い。属人的経営が生んだ「負債」が、ガバナンス不全という形で噴出したとみるべきだろう。
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