次に、ショッピングバッグの購入選択に目を向けてみましょう。レジ袋とマイバッグのどちらを使用するか選択させたり、入り口前で忘れずにレジ袋を取り端末にスキャンしたりといった、選び実行する手間が小さなストレスになりがちです。しかし、ユニクロではこの体験設計が大きく異なります。
ユニクロはショッピングバッグを「会計の途中でスキャンする対象」として扱っていません。商品を読み取った後は、支払いに進むだけ。袋の有無はタッチパネル上で「必要/不要」を選択するだけで完結し、必要分の料金が自動的に加算されます。そして実際に袋を手に取るのは、支払い後の商品収納スペースに移動してからです。つまり、袋の有無の選択と実際に手に取るタイミングが明確に分けられているのです。
また、ショッピングバッグがサイズにかかわらず一律料金であることも体験のストレスを大きく軽減しているポイントです。例えばセルフレジ中に「選んだ袋のサイズが小さかった」という状況はよくありますが、そのたびに袋をスキャン・購入し直すのでは、ユーザーは“失敗した”感覚や手間を強いられます。一律料金であれば、あとで適切なサイズを取り直せばよいだけで、余計な判断や、やり直しの負荷が発生しません。“考えさせない”ための工夫が画面外にまで行き届いているといえるでしょう。
もしスーパー側が「レジ袋をスキャンさせる」という前提を見直せるのであれば、ユニクロのように「必要ならボタンを押すだけで料金が加算される」体験は十分に実現可能です。鍵は、レジ袋に触れるタイミングの設計にあります。例えば、レジ袋を支払い前に自由に取れる場所に置くのではなく、支払い後の袋詰め台にのみ配置する運用にすれば、レジ袋は自然と“購入済みのもの”として扱えます。また、レジに小型の袋ディスペンサーを組み込んで、購入時に1枚だけ排出する方式も考えられます。
つまり「スキャン」という行為をなくすには、UI操作だけでなく、空間配置と動線まで含めて体験を再設計する必要があるのです。ユニクロが優れているのは、まさに技術そのものではなく、体験全体の組み立て方にあります。
また、ここでのタブレット上の選択肢設計とアイコンの工夫も非常に秀逸です。
一般的なUI設計では、肯定的なアクション(決定・次へ進む)は右側に、否定的なアクション(戻る・キャンセル)は左側に配置されることが多いです。これは、私たちが日常の中で「左から右へ進む」読み取りの流れに慣れており、右側を“前に進む方向”として無意識に認識しているためです。
この配置は、ユーザーが迷わず操作できるようにするための、いわば“誤操作を防ぐための慣用的なレイアウト”です。ですが、ユニクロは逆に「いいえ」を右側に配置し、合わせて矢印のアイコンを使って「次へ進む」ことを示唆する設計になっています。
試しに、基本設計に従い「はい」を右に、「いいえ」を左に配置し、アイコンも「バッグ不要」にしたUIを作ってみました(上図)。一見問題なさそうですが、マイバッグを持つユーザーにとっては、そこで思考コストが一瞬発生します。
なぜなら、「いいえ」というラベルは否定を意味する一方、実際の行動は“購買フローを継続する”という肯定的な意味も含むからです。つまりラベルはネガティブ、でも本来の行動はポジティブという非対称性があり、ユーザーは「これで進んでいいのだろうか」と一瞬ボタンを押すのをためらってしまう恐れがあります。
さらに多くのユーザーは「右=進む/肯定」と学習しているため、「いいえ=左」を押して次に進むという操作では、期待とUIの挙動にズレが生じます。この齟齬が“迷い”を生み、結果的に体験をわずかに停滞させてしまいます。
「ショッピングバッグを購入する」という行為は購買体験のメインではなく、あくまでオプションです。マイバッグを持参している人にとっては「買わない」=「この工程は自分には不要。早く次へ進みたい」という心理状態が自然でしょう。つまり、本当に提供すべき体験は「バッグは要らない」ことの明示ではなく、「要らないなら次に進める」ことを直感的に理解させるUIなのです。
そのためユニクロは「いいえ」を右に配置し、矢印アイコンで「先に進む」動きを強調しました。結果としてユーザーは「不要なら進むだけ」と自然に理解できます。さらに配色も巧みです。主要カラーの赤は「はい=購入」にのみ使われ、ユニクロで商品を買うというポジティブなニュアンスに結びつけられています。この設計は、単なるUIルールの適用ではなく、「早く会計を済ませたい」というユーザー心理と購買体験の本質に寄り添った意思決定の表れだといえます。
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