最後のステップは支払い方法の選択です。昨今のコンビニなどでは、支払い方法を会計の最初に選ばせるセルフレジも一部ありますが、ここに違和感を覚える人は少なくありません。これは「レジでの効率」と「全体の購入体験の流れ」の視点がサービス提供者(レジ)側とユーザー側でずれが生じているためです。
レジ側の都合で見れば、先に支払い手段を選ばせることで「現金支払いユーザーの現金非対応レジでのやり直し」を防ぐメリットがあります。しかし、ユーザーはそもそも“支払う手段”を先に考えて買い物をしているわけではありません。
ユーザーの体験は一つの線でつながっています。入店し、商品を探し、選び、レジへ向かう。その間、ユーザーが意識している対象は一貫して「商品」です。「何を買うか」「いくらになるか」が購入行動の中心であり、「どう支払うか」はその後に発生する決定です。
だからこそ自然なレジ体験は「商品がいくらになるか」を先に提示し、その後で支払い方法を選ぶ流れです。人はこれまで有人レジで「合計金額 → 支払い」という順序を長年学習してきました。セルフレジが新しくなっても、優れた体験はこの“慣れ”を尊重します。
ユニクロのセルフレジは、この「意識の流れ」を崩しません。商品を置き、合計金額を提示する。その後に支払い方法を選ぶ。この順序が、思考の負担を最小限にとどめています。
レジ体験を設計する上で重要なのは、操作ステップの少なさだけではありません。ユーザーが「今、何に意識を向けているのか」を正しく捉え、購買行動全体の流れを途切れさせないこと。ユニクロのレジはまさにその点で自然であり、負担がないのです。
また、デザイン的な観点でも優れています。
全てシンボルカラーである赤いボタンで構成されていますが、支払い手段ごとにグルーピングされているため、視覚的な混乱はありません。むしろ「この中から選べばよい」とユーザーが瞬時に理解できる明快なUIになっています。
画面左側に金額を常に表示し続けている点も秀逸です。セルフレジは誤操作やスキャン漏れが起こりやすい環境ですが、金額を隠さず提示し続けることで、ユーザーは自然と確認を繰り返し、違和感があればすぐに取引を中止できます。短時間の体験に“心理的安全性”を埋め込んでいる好例です。
ユニクロのセルフレジ体験全体を通しても、所要時間は30秒ほど。しかしユニクロのセルフレジのイカしたポイントは早さそのものではなく、「細かな不自然や迷いを生まない」点にあり、その思想はタブレットUIに限らず、カゴの置き場や案内POPまで含めたレジ全体に貫かれています。
レジ会計は「お客さまへの最後の接客」といわれます。誰もレジ会計を長く続けたいとは思いません。いかにスムーズに、迷うことなく完了できるか。ユニクロのセルフレジは、効率性と安心感を両立させることで、「また来たい」と思わせる“ユニクロらしいホスピタリティ”を体現しているのかもしれません。
私たちは日々、当たり前のように何かを買い、支払いを行っています。その中で本当に重要なのは、「迷わずに済む」ことです。つまりUXデザインが目指すべきなのは、「考えればわかる」ではなく、「考えなくてもできる」状態にあることだといえます。
そのためには、まず体験が簡潔であること。画面に表示された情報や手元の導線から、次に行うべき行動が一瞬で理解できることが大切です。そして、その行動は本当にユーザー自身が行う必要があるものなのか、提供者側が常に問い直す必要があります。ユーザーに“余計な判断”をさせないことは、体験の質を決める大きな要素です。
さらに、体験は慣れの延長線上にあるべきです。私たちは長い生活の中で「商品を選ぶ→合計金額を知る→支払う」という流れを無意識に身に付けてきました。この“意識の流れ”を壊さずに設計された体験は、説明されなくても自然に理解できます。
ユニクロのセルフレジが快適なのは、先端技術に頼っているからではありません。ユーザーの認知負荷を徹底的に取り除き、人が無意識に持っている体験の順序と流れを尊重しているからです。
「考えなくても使える」――その状態こそが、本当の優しさなのです。
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