今回の件でもう一つ指摘したいのは、警察は、この副代表と精密機械メーカーの社員が接触していることを、半年ほど前には把握し、捜査を進めていたことだ。
結局は「不正競争防止法違反」という罪で書類送検したわけだが、スパイ側は外交官であり不逮捕特権を持っている。つまり、スパイ側を逮捕することは難しい。とはいえ、すでにスパイが社員と接触を繰り返し、情報を入手していたのに、踏み込んだ捜査はできていなかった。諸外国には存在するスパイ防止法が、日本にはなかったためだ。
スパイ対策では、情報を盗むための唆し行為などの捜査も必要だ。さらに、スパイは盗むだけでなく、情報工作や、政治家らへの影響工作などの働きかけも行う。そのための準備でもさまざまな工作を行うため、対応するためにはきちんとした法整備も必要だ。
最近では、経済安全保障において、国家的な産業スパイも問題視されている。ビジネスパーソンがスパイのターゲットにされ、企業は買収工作などの被害を受けている。厳格な体制で守らなければ、スパイを駆使する外国勢力のカモになるだけだろう。
山田敏弘
ジャーナリスト、研究者。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフェローを経てフリーに。
国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』(文春新書)、『死体格差 異状死17万人の衝撃』(新潮社)、『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)、『世界のスパイから喰いモノにされる日本 MI6、CIAの厳秘インテリジェンス』(講談社+α新書)がある。
Twitter: @yamadajour、公式YouTube「SPYチャンネル」
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