人手不足なのに進まない「障害者雇用」 “採用ゼロ”企業が越えられない最初の壁働き方の見取り図(2/2 ページ)

» 2026年02月25日 07時00分 公開
[川上敬太郎ITmedia]
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「0→1」で3万7000人の雇用が生まれる

 厚生労働省が障害者雇用促進をテーマに開いた有識者研究会の報告書では、障害者のキャリア形成支援の大切さが指摘されています。障害の度合いも就業意欲も人によって異なる中、福祉的雇用の促進も当然ながら重要である一方で、障害者が企業の戦力として活躍できるよう支援する取り組みも同じく重要です。

 それは、人手不足に悩む企業にとっても、必要な取り組みに違いありません。報告書では、法定雇用率達成のため障害者雇用の数の確保や、雇用量に意識が向かう傾向に警鐘を鳴らし、障害者の能力発揮や適正な雇用管理といった質の向上の重要性が強調されています。

 ただ、質の向上は間違いなく大切である一方で、理想ばかり求めすぎると職場の現実と乖離(かいり)してしまいます。厚生労働省によると、法定雇用率未達成企業のうち1人も障害者を雇用していないのは3万7262社。これらの企業が1人ずつ障害者を採用するだけで3万7000人以上の雇用が生まれるのです。

 雇用先の絶対数が増えないと、障害者は仕事を満足に選ぶことができません。質の向上が過度に強調されると、障害者雇用未経験の企業は余計に身構えてしまい、一歩を踏み出すハードルはさらに上がってしまいます。

photo03 質の向上は重要だが、理想を求めすぎれば企業の第一歩を遠ざける――未雇用企業が1人採用するだけで3万7000人超の雇用が生まれる(提供:ゲッティイメージズ)

 障害者雇用に限らず、労働市場は求人量が増えれば好条件の職場に人気が集まり、条件が見劣りする求人は淘汰(とうた)されます。女性やシニア、外国人などと比較して明らかに雇用者数の増加が少ない状況を考えても、障害者が就業できる場所の数を現在よりも大幅に増やし、選択肢を増やす必要があるはずです。

 最も望ましいのは障害の有無に関係なく、誰もが能力発揮できるノーマライゼーションが実現した職場構築だと思いますが、障害者雇用未経験の企業が多く、労働市場が未成熟な現段階では、理想的な職場環境しか認めないといった極端な質重視は現実的ではありません。現在は、企業側も学びながら障害者が活躍できるようサポート体制などの環境整備に注力し、0を1にする取り組みこそ必要です。

 障害者の雇用に特別の配慮をした「特例子会社」を設置する以外にも、1日15分から働ける超短時間雇用の導入や自宅から近い場所で農園やサテライトオフィスなどを運営して雇用促進に寄与する、障害者雇用ビジネスと呼ばれる民間サービスの活用といった新たな手段もあります。

小さな一歩が市場を成熟させる

 多くの企業で、障害者雇用の経験が足りていません。「上手くいかないのでは」という懸念ばかりが先に立つと、法定雇用率を満たせなくても「納付金を払えばいい」となってしまいがちです。

 劣悪な職場が広がらないよう、一定以上の質は求めつつ状況に合わせてさまざまな手段を活用していけば、一歩を踏み出すハードルが下がり、障害者雇用の促進と戦力化の優先順位を上げる企業が増えることが期待されます。逆に、2歩目、3歩目の話ばかり優先して利用手段の規制を強めすぎると求人も雇用先も増えず、障害者の選択肢が狭まってしまいます。

 障害者雇用の一歩を踏み出した企業が最初にすべきは、サポート体制や業務再設計など、職場環境の整備です。そんな経験を通してステップアップする企業が増えていけば、やがてその積み重ねは、障害の有無にかかわらず、全ての人にとって能力発揮しやすい労働市場の成熟へとつながっていくはずです。

著者プロフィール:川上敬太郎(かわかみ・けいたろう)

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ワークスタイル研究家。1973年三重県津市生まれ。愛知大学文学部卒業後、大手人材サービス企業の事業責任者、業界専門誌『月刊人材ビジネス』営業推進部部長 兼 編集委員の他、経営企画・人事・広報部門等の役員・管理職を歴任。所長として立ち上げた調査機関『しゅふJOB総研』では、仕事と家庭の両立を希望する主婦・主夫層を中心にのべ5万人以上の声を調査。レポートは300本を超える。雇用労働分野に20年以上携わり、厚生労働省委託事業検討会委員等も務める。NHK「あさイチ」「クローズアップ現代」他メディア出演多数。

現在は、『人材サービスの公益的発展を考える会』主宰、『ヒトラボ』編集長、しゅふJOB総研 研究顧問、すばる審査評価機構 非常勤監査役の他、執筆、講演、広報ブランディングアドバイザリー等に従事。日本労務学会員。男女の双子を含む4児の父で兼業主夫。


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